まさひとのブログ

ゲームを作ったり小説を書いたりしています

クリスティーナをお安くしました

『Princess SaGa -クリスティーナの旅路-』を90%offに設定しました。
いまは100円(税抜き)で購入できます。

[体験版その1] うみなつのボクシング ―運命のデビュー戦―

 うみなつのボクシング ―運命のデビュー戦―

 目が覚めたら裸だった。寝る前は下着の上にポロシャツを着てハーフパンツを穿いていたはずなのだけれど、起きたときには乳首と性器が曝け出されていた。陰毛は濡れていない。脚のあいだに視線を移しても、性的ないたずらを受けた痕跡は見あたらなかった。とりあえず一安心である。
 それにしても、一体いつの間に脱がされたのだろうか? 昨夜ここで起きたことを思いだそうとしたけど、頭痛がひどくて思考が中断された。なんだか目の焦点が定まらないし、頭を働かせようとするたびに吐き気がこみあげてくる。それでも海夏は痛みをこらえながら、記憶をたどった。そして彼女はひさしぶりに酒を飲んだことが原因で不覚にも夜中に意識を失ってしまったという重大な事実を思いだした。テーブルの上には空になった缶ビールが二十本くらいある。よく見てみると、床の上にも何本かころがっていた。昨夜から深夜にかけて、友だちと二人で浴びるように飲んでいる。それだけは間違いない。揺るがざる証拠もある。
 部屋のなかを見まわしても、友だちのすがたはなかった。善し悪しは別として、泥酔した女性を蹂躙するために身にまとっていたものを剥いだとするならそれは理解できる言動だけれど、全裸になるまで脱がせておきながら突然性欲が失せるなんてありえるのだろうか? それとも欲情したから脱がせたというのは若い女性の思いこみで、他に何か別の理由でもあるのだろうか? 海夏はベッドの上であぐらをかきながら、深く考えこんだ。しかしいまは二日酔いのせいで頭痛がする状態だから思考を正常に働かせることなどとうていできなかった。質問ならたくさんあるけど当の本人はすでにこの部屋から消えているし、携帯にかけても繋がらないから疑問を解消することができない。けど昼過ぎにまた会う約束になっているから、そのときに訊きだすことに決めた。
 布団をめくりあげてベッドの上から跳びおりた海夏は蛇口をひねって水を飲み、寝起きの渇いた体をうるおした。そして床に散乱している衣服と下着を手でひろい、洗濯機のなかへ放り投げると、浴室に入り、頭からシャワーを浴びせた。このままでは体が冷えて風邪を引いてしまうのではないかと思うくらいずっと冷水をかぶっていた。酔いが醒めると、お湯をだして体をあたためた。そしてくちにぬるま湯を含んですすぎとうがいをくりかえし、酒のにおいが完全に消えるまで歯をみがきつづけた。それから長くて絹のような髪をていねいに洗い流した。ボディウォッシュは使わなかった。汗をかいたわけではないし、なんだかめんどうだったのだ。それに体なら昨夜酒を飲み始めるまえに充分すぎるほど洗っている。
 浴室からすがたを現した海夏は冷蔵庫を開けてペットボトルのポカリスエットをとりだし、グラスへ移さずにそのまま飲んだ。そして彼女はバスタオルを体に巻きつけただけの格好で体重計の上に乗った。めもりの針は四十八キログラムを指している。昨夜飲んだ酒のせいですこしだけ増量しているけど、気にするようなことではない。どうせまたすぐに落ちるからである。
 海夏は体からバスタオルをほどき、一糸まとわぬ姿で全身鏡のまえに立った。爆乳というわけではないけど、同年代の女性と比較をしてもかなり大きいほうに見える。巨乳という言葉がもっとも適切かもしれない、と自分ではそう思っている。もちろん巨乳化を望んだことなど一度たりともない。みずからの意思とはべつに、どんどん大きくなっていったのだ。それは海夏にとっては、あまりうれしいことではなかった。貧乳がいいとは思わないけど、もうひとまわり小さいほうがよかった。この豊満な双乳は女性としての魅力だからあったほうがいい。そんなことはわかっている。けれども今はまだボクシングをしているから、走ったり跳んだりするときに邪魔になるのだ。スパーリングで殴りあうときに不利だと感じることもたびたびあった。
 海夏は腰をひねり、鏡に映るうしろ姿を眺めた。細くて白い脚がすらりと伸びている。なにかで測ったわけではないけど、寸分たがわずぴたりと半分の長さに見えた。染みひとつ見あたらないし、かたちも申し分ない。だれもが羨む美脚だ。にもかかわらず、海夏は自分の下半身に対して煩悶することがたびたびあった。彼女の頭を悩ませている要因は、日に日にあぶらが乗り、最近ますます厚みを増してきているヒップラインだ。もちろん彼女自身にその気はないけど、まるで異性を挑発するかのように大きく張りだしている。最近は街を歩いているときにも変な視線を感じていた。見知らぬ男たちが立ちどまり、うしろ姿をふりかえっているような気がしてならないのだ。胸のふくらみを見られるだけでもいやなのに、腰から優美に流れている艶やかな曲線にまで性的な関心を持たれてもぜんぜんうれしくない。
 背中へ視線を移すと、このあいだ見たときとくらべて、背筋がたくましくなっていることがわかる。最近の彼女は毎日のようにサンドバッグを殴っているし、筋力トレーニングにも自主的に励んでいるから、その効果が如実に表れ始めている。変化を遂げているのは背筋だけではない。二の腕はしなやかで、太股も引きしまっている。ボクシングを始めてからすでに五年くらい経つけど、練習をなまけたことなど一日たりともなかった。この美しい肉体を維持できている要因はトレーニングのたまものだと彼女は確信していた。
 海夏はまれに見る美貌の持ち主だった。端正な顔立ちにしても、艶やかな体つきにしても、限りなく完璧に近い存在だった。なにかに例えるとするなら、そのすがたは大理石の精緻な彫刻のようである。職人が長い歳月をかけて創りあげた至高の芸術品だ。顔を彫ったのは天才にちがいない。静寂につつまれた街に夜明けが訪れて、窓から赤い光が射し込んでいる。そのくびれた体に陽光を受けながら全身鏡の前でたたずむ彼女は神秘的なまでに美しかった。
 海夏にはふたつの弱点があった。ひとつは豊満な胸である。彼女が選んだ競技はスポーツのなかでももっとも過激と言われているボクシングだ。戦っているときに巨乳が邪魔になることくらい想像にむずかしくないだろう。揺れないように普段からスポーツ用のブラジャーを着けているけど、それでもこの豊満な双乳は勝敗を大きく左右する要因のひとつとなりうるのだ。異性の視線をうばいあうという勝負なら相手がだれであろうとも簡単に勝てる。しかしそれでもボクシングの試合で負けてしまっては何にもならない。殴りあって相手を倒したほうが勝者というルールなのだから、女性としての魅力なんてどうでもよくなる瞬間があるのだ。
 もうひとつの弱点は腹だった。彼女の肉体は全体的にほど好く引きしまっているように見えるけど、じつをいうと、腹にだけはぜんぜん筋肉がついていなかった。もちろんボディトレーニングだけをなまけているわけではない。同じジムの仲間たちからメディシングボールを落としてもらっているし、グローブで殴らせたりもしている。そのほかにも腕立て伏せや上体起こしなどの筋力トレーニングを毎日のようにくりかえしおこなっている。それでも海夏のボディはまるでマシュマロのように柔らかかった。上腹部も下腹部も、見るからに弱々しかった。体を鍛え始めてすでに五年も経過しているのだからそろそろ腹筋が縦に割れてくれてもいいころだと思うのだけれど、いまだにその気配すらなかった。指先で軽く触れてみても、プリンのような感触しか伝わってこないのだ。それはボクサーとして致命的な弱点といっても過言ではなかった。しかし、いまの彼女にふたつの弱点を克服することはできなかった。
 海夏というのは彼女の本名である。読み方は(うみなつ)ではない。親の命名では(みか)と読む。やれやれ、めんどうな名前をつけてくれたものだな、と海夏は思った。厄介なことに、公の場で名前を間違えられることがたびたびあるのだ。見知らぬ人から「うみなつさんって読むのかしら?」と訊かれたことはもう数え切れない。「ねえ、うみなさんだよね?」このような間違い方をされたこともあった。「あなたのお名前なんだけど、かいなつさんでいいよね?」こんな間違い方はいい加減にうんざりだった。
 彼女は名前を間違えられるたびに、「いいえ、私はうみなつではありません。岩崎海夏(いわさきみか)です」と答えてきた。生まれて来てから今までのをすべて合計した場合という話になるなら、その台詞を吐いた回数は優に百を超えている。名前を間違えられるたびに嫌気が差していた彼女だけど、うみなつと呼ばれることに関してはもうあきらめていた。本名はみかでニックネームはうみなつということでもかまわなかった。たとえ公衆の面前でうみなつと呼ばれても素直に返事をすることに決めていた。
 海夏はバスタオルを干し、下着を身につけると、Tシャツとハーフパンツだけの軽快な服装に着替えた。それから床にころがっている缶ビールをすべてテーブルの上に置いて、何本あるのか数えてみた。空になったアサヒスーパードライは全部で二十四本だった。これは友だちと二人で空けたものだけど、海夏は自分で飲んだビールの本数を思いだすことができなかった。五本目のふたを開けたところまでは覚えている。けれども、その先の記憶が曖昧だった。もう二度と意識を失うわけにはいかないから、今後はどれだけ酒を飲みたい気分でも四本までで我慢をすることに決めた。今回は無事に済んだけど、次こそはほんとうに犯されることになるかもしれないからである。
 部屋の掃除が終わったとき、時計の針は午前十一時をまわっていた。最後に食べ物をくちにしたのは昨夜ビールを飲んでいるときで、ポテトチップスとピーナッツをすこしつまんだだけである。それは海夏にとっては、とても満足な食事と呼べるようなものではなかった。だからいま、海夏はめまいがするほどの空腹感に襲われている。このままでは倒れてしまいそうだったから、冷蔵庫を開けてパンとミルクをとりだし、簡単な昼食を済ませた。ハムとタマゴのサンドイッチは海夏の大好物だった。ちいさいときから毎日のように食べているけど、いまだに飽きない。
 端麗なその肢体からは想像もできないことなのだけれど、見かけによらず、海夏は食欲旺盛である。ラーメン屋では醤油のチャーシュー麺を大盛りにして食べることを好んでいるし、そこからさらに餃子とチャーハンをセットで注文することもめずらしくはない。レストランへ行ったときは、ライスと一緒に一ポンドサーロインステーキを二枚食べているにもかかわらず、まだ足りないと言うこともある。それでも運動量のほうが多いから太らないのだけれど、海夏は女性にしては驚くほどよく食べる。もちろんコンビニで買ったサンドイッチをミルクで流しこんだだけではぜんぜん満足できない。けれども、これからボクシングジムで激しいトレーニングをおこなう予定だからあまり腹のなかに入れ過ぎることはできない。以前食堂でかつ丼の大盛りを平らげてからジムへ行ったことがあるのだけれど、先輩たちにスパーリングを強要されてボディブローをたたきこまれた経験があった。ベストコンディションならなんとか腹筋で受けとめることができるパンチでも、腹のなかにかつ丼の大盛りが保管されている状態だったからとうてい耐えられなかった。全体重を乗せた渾身のボディアッパーが胃袋を下から突きあげるようにして深々とめりこみ、あまりの衝撃に両足が宙に浮いてしまったことをいまでもまだ覚えている。そして海夏はみんなに見られているにもかかわらず、リングの中央で悶え苦しみながら未消化の嘔吐物を吐き散らしてしまった。それ以来、練習前はあまり食べ過ぎないことに決めた。どれだけお腹が空いていたとしても、サンドイッチをひとつ食べるだけで我慢をしなければならない。ボクシングジムは人間を殴ることが認められている場所で、いつどこからパンチが飛んでくるのかわかったものではないからである。好きなものを満足のゆくまで食べたいけど、それは練習が終わったあとにしなければならない。
 海夏はコンディションを確認するために、全身鏡の前でシャドーボクシングを始めた。素振りをしながら鏡に映る自分のすがたを見ている。昨夜のアルコールの影響だと思うけど、普段よりすこしだけ体が重たいような気がした。足が軽やかに動いてくれないし、パンチもぜんぜん切れていない。けれども、それ以外はいつもとなんら変わりはなかった。シャワーを浴びながらずっと歯をみがいたおかげで頭痛もかなり和らいできている。運動靴を履いて外へ出ると、マンションの自室に鍵をかけた。そして海夏はエレベーターを使わずに、最上階から一階までつづいている長い階段を一気に駆けおりた。空は淡く曇っていたけど、光は柔らかかった。どこからともなく風が吹き抜けてきて、この地域の夏にしてはまだ涼しいほうだった。交差点を渡り、中央区に入ると、見慣れた風景が視界にとびこんだ。買い物をしている主婦や、恋人とデートをしている若者や、通勤中のサラリーマンが多い。いま、街は彼らで溢れかえっている。
 街角では、身なりのよい男を薄着で誘惑している売春婦のすがたが見られた。彼女たちは昼夜を問わず、男に酒を飲ませることばかりを考えているにちがいない。風俗で収入を得るためなら酔っ払いに体を弄ばれることくらいなんとも思わないのだ。彼女たちは男と寝るたびに生活が豊かになっていく。あまり詳しいわけではないけど、抱かれている時間の長さと収入が比例する仕組みになっているらしくて、なかにはサラリーマンの何倍も稼ぎだすような売女もたくさんいる。人気が高くなることによって給料もだんだん増えていくから、積極的に抱かれたがる女が多い。純情な乙女には信じられない話だと思うけど、お金のためとはいえ彼女たちはその豊満な肉体をみずから差しだしているのだ。どうかお願いですから、今夜は私で射精をしてください、と。風俗というこの業界にはそんな台詞を吐く女もめずらしくはない。
 休みの日もあるとは思うけど、彼女たちは飽きもせずほとんど毎日のように顔や体で精液を受けとめつづけている。世の中には遅漏もいれば早漏もいるし、精子の薄い人もいれば濃い人もいる。射精の量と回数も人によってさまざまだ。射精後の勃起回復力にも同様のことが言えるだろう。彼女たちはいろんな男のいろんな精液を体験し、ときには注がれたり飲まされたりしている。数時間前に知らない男の精液で顔や髪を汚されたかと思えば、いまは別の男の精液を胸や腹で受けとめているかもしれないし、そしてその数時間後にはまた見知らぬ男に豊満な体を抱きしめられながら脚のあいだについているものを精液で穢されているかもしれない。いつまでもそんなことばかりをつづけていればそのうち病気にかかる可能性だって充分に考えられるだろう。たぶん金銭的なトラブルが原因だと思うけど、やくざ風の男に殴られて理不尽に命を落とした悲惨な売女もいる。末恐ろしい仕事だ。想像しただけで身の毛もよだつ話だと思うのだけれど、売春をそこまで汚らわしいものとして見ている女性は自分だけなのだろうか?
 海夏は売春婦にだけはなりたくなかった。見知らぬ男に体を売るくらいなら地元のデパートでバイトでもしていたほうがまだ気が楽だと思っている。もちろん収入だけでものごとを考えるならデパートの定員なんかよりも売春婦のほうがはるかに上まわるだろう。少数とはいえ、この街にはたったの数年間で何億円も稼ぎだした売女が実際に存在している。短期間である程度まとまったお金を手に入れることができる商売だから魅力的と言えなくもないけど、それでも海夏は売春婦にだけはなりたくなかった。好きでもない男のペニスを双乳のあいだに挟めたりくちにくわえたりするくらいなら自殺を選んだほうがまだましだった。お金なんかよりももっと大切なものを失うくらいなら潔く死んだほうがいい。
 海夏は人ごみのあいだをすり抜けるようにしてジムの前まで走り、玄関の扉を開けてなかに入った。ほかの練習生たちはすでにトレーニングを始めていた。グローブでサンドバッグを叩いたり、鏡の前でシャドーボクシングをしたり、トレーナーにミットを持たせてコンビネーションにみがきをかけている。リングの上を見てみると、二人の男が対峙していた。彼らはこれから本気で殴りあうのではないかと思うくらい険悪なムードを漂わせている。
「おれは以前からおまえのツラが気に入らなかったんだ。ボコボコにしてやる」
 その台詞を吐いたのはミドル級の長野さんだった。彼はいま上半身裸だから、背中に彫られた龍の刺青がみごとに露出されている。彼はプロボクサーではない。趣味の範囲でジムに通っているだけの練習生に過ぎず、試合に出る気はまったくないとのことである。それでも長野さんはとんでもなく強い。海夏が知る限り、負けたことなど一度もない。とにかくパンチが重たいし、たいていの人は一発殴られただけで意識を断ち切られることになるだろう。彼はスパーリングだけではなくストリートファイトでも無敗を誇り、この街で生活をしている人々からもっとも恐れられている存在だ。以前はどこかの組員だったらしい。これは風の噂に過ぎないけど、長野さんは過去に人を殺したことがあるとだれかが言っていた。真相は定かではない。
「今日こそ殺人犯の息の根をとめてやる」
 森山さんはウェルター級である。長野さんより二階級下だけど、そんな些細のことを気にするような二人ではない。このジムはすこしくらい階級に差があったとしてもおたがいが同意をしているなら遠慮なく殴りあっていいことになっているし、まわりで見ている練習生たちも止めようとはしなかった。海夏は華奢な女性だから安全に体を鍛えたいと思っているけど、男たちはそうではない。彼らはこのように答える。これはあくまでリングの上での出来事なのだから、たとえどちらかが死ぬことになったとしてもかまわない、と。むしろどちらかに死んでほしいと思っている人もすくなくはなかった。できれば両方とも死んでほしいと思っている人もめずらしくはなかった。
 ゴングが鳴ったとき、ボクシングという名の殺し合いが始まった。リングの上ではなにが起きたとしても事故である。それはけっして殺人ではない。すくなくとも彼らはそのように主張する。医者や警察や近所の人たちはともかく、ほかの練習生たちもそのルールに同意をしている。
 開始早々長野さんの強烈なパンチが腹筋に突き刺さり、森山さんの体がくの字に折れた。それはほんとうにすさまじいボディブローで、自分だったら内臓が破裂しているんじゃないかと海夏は思った。森山さんはすでに息も絶え絶えだけど、男のスパーリングがこの程度で終わることはまずない。長野さんの狙いすましたアッパーカットがまともに入り、顎を砕かれた森山さんは力なく膝からくずれ落ちた。まさかマウスピースをくわえていなかったのだろうか? おそらく舌をかみ切ったせいだと思うけど、くちから血が流れている。海夏は携帯を手に持ち、救急車を呼んだ。だれも助けようとしなかったけど、それでも海夏だけはジムのなかで死人が出ることを望んでいなかった。救急車はすぐに到着した。そして医者と看護婦が力をあわせて怪我人を担架で運び、病院に搬送した。
 これはあくまで男性と比較をした場合という話になるのだけれど、女性同士のスパーリングはもっときらびやかで安全である。彼女たちは憧れの肉体美を手に入れることを目的としてジムに通っているだけだから、危険行為を好む理由はどこにもないのだ。一部のパンチドランカーを別にすると、みんな顔に傷がつくことをなによりも嫌がっている。ヘッドギアをつけているにもかかわらず、軽いパンチが一発あたっただけですぐにだれかが止めようとするし、ボディブローをもらってくちからマウスピースを吐きだしかけただけでレフェリーがあいだに割って入ることもめずらしくはない。
 男性のスパーリングは女性のそれとは別次元で、いつ見ても恐ろしいものである。彼らは出血や骨折をなんとも思っていないし、しかも殴りあう理由は顔が気に入らないからである。あるいは口の利き方や態度が癇に障るからである。そんな個人的な感情でいちいち殴りあっていたら命がいくつあっても足りないんじゃないかと海夏は思っている。
 いま病院から連絡が入ったのだけれど、森山さんは一命を取り留めたらしい。止血は済んでいるし、心臓も動いている状態だ。命に別状はないとのことである。それを聞いた海夏は安堵の表情を浮かべて、看護婦にありがとうと言った。そして携帯の電源を切った。
「長野さん、あなたにお話があります」海夏はうしろから肩をたたき、長野さんを振り向かせた。
「海夏、おれに何か用なのか?」
 長野さんはサンドバッグを殴るのをやめて、海夏の顔と姿を見ている。海夏は強い男が嫌いなわけではなかった。二人の仲はそれほどわるくはない。ジムのなかで顔をあわせたときは最低限の礼儀作法としてあいさつを交わすことがたびたびあるという程度の間柄だった。殴られたことはなかったし、殴ったこともなかった。
「なにがあったのか知りませんけど、たかがスパーリングでここまでのことをする必要はないでしょう。一命を取り留めたからいいものの、森山さんは顎を砕かれてくちから血を流しながら死にかけたんですよ。看護婦が言うには全治一ヶ月とのことです」
「あんな奴は死んだってかまわないだろう」と長野さんは冷ややかに言った。
「いったいどういう経緯で殴りあうという話になったのかしら?」
「これは周知の事実だけど、森山はきみのことを一人の女性として見ている」
 森山さんはきらびやかに汗を流す海夏のすがたを眺めることがたびたびあった。だから海夏は恋愛対象として意識をされていることにはとっくに気づいていた。セックスの対象として見られているといったほうがいいかもしれない。胸やお尻に性的な視線を感じることもすくなくはなかった。
 練習が終わったあと、映画や食事に誘われたことがある。土曜日の夜に電話がかかってきて、明日は日曜日だからおれと一緒に街へ遊びに行かないかと言われたこともあった。しかし、海夏はそのすべてを断った。森山さんはけっしてわるい人ではないけど、異性としての魅力を強く感じさせてくれる男ではなかった。海夏にとっては、同じジムに通っている練習生の一人に過ぎなかった。まさか肉体関係を持ちたいとは思わない。
「森山さんが私に好意を抱いているという話がほんとうだとしても、そんなものが殴りあう理由にはならないでしょう。しかもあなたは致命傷を与えているのよ。納得のいく説明はできないのかしら」
「知っていると思うけど、おれもきみのことを一人の女性として見ている。だから森山はおれにとって邪魔な存在以外の何者でもなかったんだ」
 今回の過激なスパーリングは岩崎海夏という一人の美しい女性をうばいあうことが真の目的だった。これは彼らが勝手に決めたルールなのだけれど、戦いに勝利をした者が愛する女性に交際を申し込むことができるという約束になっているらしかった。やれやれ、どうして男はこのような冗談を好んでいるのだ、と海夏は思った。


 つづく

 予告ページはこちら
 http://www.dlsite.com/maniax/announce/=/product_id/RJ207358.html

 ピクシブはこちら(縦書き)
 https://www.pixiv.net/member.php?id=18027316

クリスティーナの旅路のお値段について

9月22日までは80%offでしたが、9月24日からクリスティーナの旅路を85%offに設定して
販売することに決めました。
たったの5%とはいえお安くなりましたので、是非この機会にお買い求めください。

クリスティーナの販売ページはこちらです。
http://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ197411.html

次回作の予告ページはこちらです。
http://www.dlsite.com/maniax/announce/=/product_id/RJ207358.html

ご存知の方もいると思いますが、次回作はゲームではなく小説です。
せめて文庫本一冊分くらいのボリュームに仕上げる予定です。(約150,000文字程度)
ご期待ください。

割り引きが終了しました

クリスティーナの旅路を80%offで販売しておりましたが、9月22日に割り引き期間が終了し、
通常の1,000円(税抜き)に戻りました。
この時点でダウンロード数はぴたりと400です。
プレイしていただいたユーザー様には心よりお礼申し上げます。
何かわからないことがあったらなんでも聞いてください。
コメントお待ちしております。

次回作はゲームではなく小説なので残念そうにしている人も何人かいますけど、
小説を好んでいるユーザーには楽しめる内容に仕上げるつもりです。
それに僕はゲームを作るより小説を書くほうが得意です。

ご期待ください。

次回作のタイトルを変更しました

旧 : うみなつのボクシング ―ふたつの弱点―

新 : うみなつのボクシング ―運命のデビュー戦―

予告ページはこちらになります。
http://www.dlsite.com/maniax/announce/=/product_id/RJ207358.html

発売開始日は11月中旬以降になるかもしれません。
体験版の公開も11月を予定しております。

ずいぶん長いあいだお待たせしてしまって大変申し訳なく思っております。
これでも急いでいるつもりなのですが、今回はとくにクオリティーの高さとボリュームにこだわっていますので、まだしばらく時間がかかります。

北朝鮮の弾道ミサイルについて

8月29日に北朝鮮から弾道ミサイルが飛んで来ましたけど、
僕はそのとき小説を書いていて、予期せぬタイミングで携帯が鳴りました。
そして僕は執筆を中断してまで携帯を手に持ち、メッセージを確認しました。
政府から国民に危険が発信されていたからびっくりしましたけど、
朝になってニュースを見てみたらさらに驚かされました。
札幌市民が慌てふためいている光景がテレビに映し出されていて、
これはほんとうに危ないんじゃないかと僕は思いました。
僕は札幌付近に住んでいる人間ですから強い危機感を抱かざるを得ませんでした。
結局日本国土にミサイルが落下するようなことにはなりませんでしたが、
それでも久しぶりに冷や汗が流れましたよ。

北朝鮮のミサイルは本当に嫌ですよね……。

その日から、僕は北朝鮮のミサイルに関するニュースに対して敏感になってしまったのです。
yahooニュースやmsnニュースには次のように書かれていました。

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北朝鮮「列島、核で海に沈める」=制裁に便乗と日本非難

【ソウル時事】14日の朝鮮中央通信によると、北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会は13日、
報道官声明を出し、国連安保理での対北朝鮮制裁決議に関し「日本は米国の制裁騒動に便乗した」と
非難した。その上で「日本列島4島を核爆弾で海に沈めなければならない」と威嚇した。
声明は「わが軍や人民の声」として、「日本の領土上空を飛び越えるわれわれの 大陸間弾道ミサイル(ICBM)を見ても正気を取り戻さない日本人をたたきのめさなければならない」と主張した。
さらに、米国を「決議でっち上げの主犯」と決めつけ、 「わが軍や人民は、米国人を狂犬のように棒で打ち殺さなければならないと強く主張している」と警告。
声明の英語版は日本人を「ジャップ」、米国人を「ヤンキー」と蔑称でののしっている。

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そもそも今さら日本人のことを『ジャップ』と呼ぶなんて変だろう……。
日米戦争でもあるまいし。

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北朝鮮、「核兵器で日本を海へ沈め国連を廃墟に」と威嚇

[ソウル/日本 14日 ロイター] - 北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会は14日の声明で、日本列島を核兵器で「沈める」と警告するとともに、最近の核実験に対する追加制裁決議を行った国連を破壊して「廃墟と暗黒」にすると威嚇した。国営の朝鮮中央通信(KCNA)が報じた。

北朝鮮の対外関係やプロパガンダを担当する同委員会は、国連安全保障理事会の解散を要求し、安保理を「賄賂を受けた国々」から成る「悪魔の手段」と批判。

日本については「4つの列島でできた国は、主体(チュチェ)思想の核爆弾で海に沈めるべきだ。日本はもはや、わが国の近くに存在する必要がない」とした。

主体思想は故金日成(キム・イルソン)主席が唱えた、北朝鮮で指針となっているイデオロギー。

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この連中は核ミサイルで日本を海に沈めることになんの意味があると言っているんだ?
日本はまだ何もしていないだろう!
こっちが核兵器を所有していないからといって調子に乗りやがって、絶対に許さんぞ!!

しかもアメリカは日本を見捨てるつもりらしいから本当に危ないよ。
どうせイギリスも当てにならないからなあ……。
いっそのこと、中国か韓国が北朝鮮に先制攻撃をしてほしいよ。
アメリカはイラク戦争なんかをせずに北朝鮮と戦えるだけの力を残しておくべきだったんじゃないかな。
今更もう遅いけど……。

[新作予告] うみなつのボクシング ―ふたつの弱点―

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意外にも早くイラストが納品されました。
やはり完成品は美麗です。

新作の予告ページはこちらです。
http://www.dlsite.com/maniax/announce/=/product_id/RJ207358.html

そろそろ線画を公開します

ラフ提出






この段階で輪郭がはっきりしてきました。
大ラフとは美しさがぜんぜん違います。
注文通りといった感じでとても嬉しいです。
あとは完成を待つばかりです。

まずは大ラフを公開させていただきます

rough_a_01






天才的な構図です。
完成品は今月の27日~30日に納品できるらしいので、届きましたらすぐにでも公開いたします。
線画はすでに届いているのでいつでもお見せできる状態ですが、ぼくの都合で翌日に延期します。
小説の発売日は今年です。

追記
コメントの拒否条件を初期設定に戻しました。
いまは誰でも書き込むことができます。

次回作の進捗状況

完成にはまだ遠いんですけど、このブログにサンプルを公開したいと思っております。
毎日というわけにはいきませんが、定期的に本文を掲載していく予定です。

縦書きで読むことを前提として書いた文章を横書きで読んでも味わい深くはなりませんが、いつまでも読者を退屈させるよりはまだましかもしれないと思いました。

次の記事では、作品のタイトルと本文を掲載します。


追記

次の記事はイラストになるかもしれません。
たぶん今日か明日に線画が納品されるので、まずはラフ絵を公開します。
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