半分くらいの女子が検査を終える頃になると、秋山澪はだいぶ落ち着きを取り戻していた。もう泣いてはいない。尻穴の違和感も、気付いたら消えていた。

 他の女子たちは、多かれ少なかれ嫌そうな態度を取っており、終わった後は一様に顔を真っ赤にしていたが、しかしカーテンの向こうでは、おおよそ、素直にお尻を差し出しているようだった。
 見たわけではないが、カーテン越しに聞こえてくる遣り取りから、秋山澪はそう判断した。
 ただ、男性教師が声を荒げたことも、これまでに何回かあった。
 言葉の内容はほぼ同じである。「はやくしろ!」や「尻を上げろ!」などで、つまりは、恥ずかしくてなかなか従えない子は自分の他にも居るということであり、その点で秋山澪は少し気が楽になった。嫌で嫌でどうしようもないのは、自分だけじゃないんだな、と思った。
 カーテンの仕切りから泣きながら出てくる子を見た時は、同情で胸がいっぱいになったりもした。他人のことを気に掛けられる程度には心に余裕ができたのである。

 尻を出せずにグズグズしている子は、秋山澪と同じように、大人しい子が多かった。
 しかし例外もあった。女子の中で一番 先生を手間取らせたのは、意外にも田井中律だった。
 ブルマとパンツを脱ぐのに時間が掛かり、足首を掴むのにも時間が掛かり、さらには尻を上げるのにも時間が掛かった。最後などは、男性教師に怒鳴られながら、尻に平手打ちを食らう有様である。
 カーテン越しに漏れ聞こえてくる嗚咽に、女子たちはざわめいた。
 中でも最も驚いていたのは、秋山澪だった。しかし、納得の余地はあった。律ちゃんは明るくて、何にでも積極的で、男子にも物怖じしなくて、クラスのまとめ役だけど、確かに繊細なところもあった気がする。そう思ったのである。
 律ちゃんも、本当は恥ずかしかったんだね……。
 秋山澪は、田井中律に対してこれまで以上に親近感を抱いた。

 集団ぎょう虫検査は、この一回限りで廃止となった。保護者会から抗議を受けたためである。
 昭和の時代ならともかく、人権意識の高まった平成の世において、尻を突き出させた上に肛門を検査するという蛮行がいつまでも罷り通るはずはなかった。
 しかし、一度でも行われてしまった以上、記憶には残り続ける。
 中学生になった秋山澪は、ある日、他区出身の男子から、集団ぎょう虫検査のことを尋ねられた。
 その時 彼女は、顔を真っ赤にして俯いたのだが、同時に、興味津々でそんなことを質問してくるその男子に失望していた。
 それまでは、彼に対して密かに恋心を抱いていたのだが、その想いは、一瞬にして苦い思い出に変わってしまったのだった。