郊外の学習塾で講師のアルバイトをしている。
 塾とは言っても、小さなコンテナハウスで軽く勉強を見てあげる程度の小規模のものだ。
 生徒も数えるほどしか通っていない。
 ボクはコンテナハウスの一室で、次の授業の準備をしていた。
 その時、ガラガラとトビラをスライドさせる音が聞こえた。
「こんばんはー」
 玄関から、間延びしたアイサツとともに女の子がはいって来る。
 次の授業を受ける生徒のひとりだった。
 いつもは通っている高校の制服を来てくる彼女が、今日は珍しく学校のジャージー姿だった。
 それに加えて、妙に土で汚れていた。
「はい、こんばんは」
 適当な返事をしてボクは準備を続ける。
 彼女が自分の席へは向かわず、何故かこちらに近づいてきた。
「せんせー、コレってなんでしょうか? 両親を埋めてたら見つけたんですけど」
 そう言って差し出す彼女の手には、グレープフルーツぐらいの大きさの透明な玉がにぎられていた。
「こんなにおっきくて丸いガラス玉なんて初めてみました」
 たしかに、見た目だけではただのガラス玉に思えた。
 受け取って、じっくりと吟味する。
 重さや感触から考えると、
「多分だけど、これはガラスじゃなくて水晶だ。本物の水晶玉。占いにでも使うんじゃないかな」
 彼女の表情にあからさまな疑問符が浮かんでいる。
「占いに使うって……これを?」
『水晶玉を使う占い』というイメージがわかず、いまいちピンとこないようだ。
 水晶玉といえば占い師。
 占い師といえば水晶玉。
 そう言っても過言ではないと思っていたが、どうやら最近はそうではないらしい。
 ボクはハンカチを取り出し、四つ折りにして机に敷いた。
 そこへ水晶玉を鎮座させ、玉の左右から手をかざす。
「こんな感じで『水晶の中に未来が見える』みたいなことを言って、バ……占うんだよ」
『バカからカネをむしり取るんだよ』という言葉は飲み込んでおいた。
 彼女が水晶玉の中を覗き込む。
「なるほど~、どんなふうに見えるんですか?」
「わからない、占い師じゃないからな」
 ボクには下に敷いてあるハンカチの柄がゆがんで見えるだけだった。
「じゃあ、私が――」
 ハンカチごと水晶玉を引き寄せ、ボクを真似て両手をかざす。
 そして、水晶玉を凝視し始める。
「あ、せんせーの未来が見えます」
「へぇ、どうなってる?」
 試しにボクも見てみるが、特に何も見えない。
「ソンブレロをかぶってて、ポンチョを着てて、タコスを食べ歩いてます。今日の深夜みたいです」
「夜食にタコスはちょっと重いなぁ」
 適当に聞き流しながら、適当な相槌を打つ。
「おっ……道に落ちてるバッグを拾いました。チャックを開くと……うわッ!大量の札束が――」
 ――ピロリンッ
 と、彼女のポケットから間の抜けた音が響いた。
 彼女は水晶玉から手をはなし、ポケットからスマートフォンを取り出した。
「あー……やっぱりかぁ……」
 水晶玉をポケットに仕舞い、スマートフォンを操作しながら彼女は自分の席へ行ってしまう。
 中途半端にかきたてられたボクの興味を置き去りにして、占いはそこで終わった。
 その後、すぐに別の子たちが来塾し、授業の時間になってしまう。
 授業後もなにかとタイミングが悪く、結局、占いの内容を問いただすことはできなかった。
 塾の戸締まりを確認して、ボクも帰宅の準備をする。
 ボクは、ロッカーからソンブレロとポンチョを取り出した。