どうぶつ村誘拐事件


こうひー 著

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「村長の娘は預かった。――」

そんな言葉で始まるメッセージを残して、ヒツジ村長の娘ウルルは忽然と消えてしまいました。
相談を受けてやってきた探偵のドーベルとカバ太は大急ぎで捜査を始めました。
なぜなら、置手紙の最後にはこう書いてあったからです。

――以上の要求に従わない時はこの子は1時間ごとに毒ガスを吸うことになる」



「お頭ー、指定した場所には誰もいませんでしたー」
偵察に出た娘が報告すると、お頭と呼ばれた娘はふん、と笑いました。
「自分の娘よりも村のお金のほうが大事ってわけかい。立派な村長さんだねぇ。
ま、あたしたちの言うことを無視したツケは、娘のあんたに払ってもらおうか」

お頭がそういって振り向いた先には、薄暗い中、柱に縛り付けられた羊娘のウルルが
湿気た木の床に座りながら、不安そうに辺りを見回していました。
お頭や偵察役だけでなく、周りを取り囲む誘拐犯たちはみんな若い娘のようでした。

その中の一人が近づいてくるのを見て、ウルルはビクッと身を強張らせました。
ウルルの前で立ち止まった娘は、黒地に白の線が走る毛皮に包まれたかわいらしい顔で
おびえるウルルの顔を覗き込みました。
他の娘たちも同じような姿をしていました。ウルルの村では見かけたことの無い格好の人たち。
不意に目の前の娘が背中を向けたので、ウルルの顔にふわふわした大きな尻尾が触れました。
娘たちの毛並みと同じ、黒地に白の線が入った大きな尻尾はウルルの顔をやさしく撫で上げると、
ググッと持ち上がって、中腰になった娘のお尻が丸見えになり――
プゥッ

なんと娘のお尻からオナラが出て、あっという間にウルルの顔を包み込んでしまいました。

ウルルは驚いて目を丸くしていましたが、オナラを嗅いでしまうと「きゃうっ」と叫んでのけぞり、
臭い臭いニオイを振り払おうと頭をぶんぶん振りました。
けれども、柱に縛られた手では鼻を抑えることも出来ないので、
息をするたびにもやもやと漂う臭い臭いオナラを嗅ぎ続けてしまい、
ウルルは目を回しながらぐったりと床に崩れてしまいました。
「うふふ、1時間後も楽しみだねぇ」
お頭はその様子を見て言いました。



「手がかりが集まらない。ここはむこうの島まで行って聞き込みをしたほうがいい」
港までやってきたドーベルはちょっとだけ遠くに浮かぶ離れ小島を指していいました。
「でもドーベル、島に行くには船がいるよ?」
カバ太が聞くと、ドーベルは辺りを見回して、一隻の漁船とその乗組員たちを見つけました。
「よし、あの人たちに頼もう。すいませ~ん・・・」

ドーベルとカバ太がお願いすると、漁師さんたちは快く承知してくれました。
「もうすぐ出港するから、ちょっと待っててね」
女の漁師さんはそう言って二人を船に乗せてくれました。この人だけでなく、この船にいる人はみんな
女の人のようでした。
「ねぇドーベル、この船の人たちはみんな女の人なんだね」
カバ太がそれに気づくと、女の漁師さんの一人が笑顔で言いました。
「それだけじゃないのよ。この船に乗っているのはみんな同じ動物なの。何だか分かる?」
カバ太はしばらく漁師さんたちを見比べていましたが、黒地に白い線の入った毛皮や、
同じような色をした大きな尻尾を見て、わぁっと言って鼻を抑えました。
「ス、ス、スカンクだぁ!!」

黒地に白の線が入った毛皮、大きな尻尾・・・。
それらはくさ~いオナラで有名な、スカンクたちの特徴でした。
スカンク娘の漁師さんはクスクス笑いながら言いました。
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。私たちは自分が危ないときしか
オナラで攻撃したりはしないから」
それを聞いて、カバ太はホッとして鼻を抑えるのを止めました。

ドーベルはそんなやり取りを見ながら、一人難しい顔をして考え事をしていました。



出港した船が、ちょうど港と離れ小島との間に差し掛かっても、ドーベルは考え事をしていました。
「どうしたのドーベル?ひょっとして、犯人がわかったの!?」
カバ太が尋ねると、ドーベルは言いました。
「脅迫状を思い出していたんだ。人質は1時間ごとに毒ガスを吸わされることになる――」
「そ、そうだよ!急がないと人質が危ないよ!!」
脅迫状のことをすっかり忘れていたカバ太は、いきなり慌て始めました。
ドーベルはそんなカバ太を落ち着かせると、推理を続けました。
「まぁ落ち着くんだカバ太。
毒ガスといえば臭いオナラ、臭いオナラといえばスカンク、スカンクといえば・・・」
「えっ?じゃあこの船の漁師さんたちが犯人なの!?」

「バレたからには、ただじゃおけないわね!」
急に声がした方向に振り向くと、いつのまにか大勢のスカンク娘たちが二人に迫っていました。
「しまった!聞かれてたのか」
「や、やっぱりそうだったんだ!あわわ・・・」
もはや岸まで泳いで逃げるには遠い距離でしたし、たとえ海に飛び込んだとしても漁船の網で
捕まってしまうかもしれません。
何よりもそんな事を考える間もなく二人はじわじわと甲板の先に追い詰められていきました。

「さぁ、覚悟はいいわね・・・?」
スカンク娘の一人がそう言って背中を向けると、それを合図に他のスカンク娘たちも振り向いて、
尻尾を高々と掲げてお尻をドーベルたちに向けて突き出しました。
「ひっ!」
カバ太は思わず鼻を抑えましたが、その程度の事でこの危機を切り抜けられるとは思えません。
ドーベルは必死に考えを巡らせましたが、もうどこにも逃げ場は無さそうでした。
「これまでか・・・!?」

「みんな、よ~く狙ってね」
スカンク娘たちも発射体制に入り、いよいよおしまいという時、怯えるカバ太の目に船の備品らしい
大きなブルーシートが目に入りました。
「そ、そうだ!これを・・・!!」

「いくわよ!いち、にの・・・さんっ!!」
ばっふぅうぅぅぅうぅぅぅっ!!

「え~いっ!!」
ばさぁっ!!

スカンク娘たちがオナラをした瞬間、カバ太は大きなブルーシートを彼女たちに向かって広げました。
これにはドーベルも感心しました。
「そうか、これならスカンクの毒ガスを彼女たち自身に吸わせてしまえる!でかした、カバ太!!」

しかし、ぶわっと広げられたシートが、毒ガスもろともスカンク娘たちを包み込もうとしたその時!

びゅううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ
「うわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」

突如吹き付けた突風により、シートはカバ太たちのほうへ被さってしまいました。



「うう・・・いたた・・・はっ!?」
シートの下でひっくり返っていたカバ太は、シートの外から自分を取り囲む気配に気づきました。
「詰めが甘かったわねぇ、探偵さん」
スカンク娘の声が聞こえた方向のシートがめくれ、白黒の大きなお尻が入ってきました。
「ひえええっ!?・・・あわわ・・・」
見回せば、あちこちのシートがめくれて、あっという間にカバ太の周りはスカンクのお尻だらけになりました。
「う、うわ・・・やだ・・・いやだぁ!!」
「みんな用意はいい?いっせ~の・・・・・・・」

ぶばふぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!
ぶぶぶぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!
ぶぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!
「うっぎゃあああぁああぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~ぁっ!!」

スカンク娘たちがオナラをすると、シートの中の空気は毒ガスでまっ黄色に染まり、カバ太は
ぎゃあぎゃあ喚いて、バタバタと悶え苦しんで、ヒイヒイと息を乱れさせました。
「ふげぇ!うぎゃあ!助けて、ドーベルぅ!!」

「ぎゃふぅ・・・ヒィ」
ドーベルはシートの外で既にノビていました。
カバ太よりもずっと素早いドーベルは、シートが被さってきた瞬間、とっさに飛びのいて逃げ出す
ことが出来たのです。
しかし、その時流れてきたスカンクのオナラガスをまともに嗅いでしまったのでした。
カバ太よりもずっとずっと鼻の効くドーベルには、それだけでもあまりの臭さに目が回ってしまい、
まともに立っていることもできなくなってしまったのでした。

「よーし、もういっぱつぅ!続けてもういっぱつぅ!せ~のっ!」
ぶっすぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!
ぶぶっすぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!
むっすすすぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!
「んぎゃあぁ!助け、ぐひゃあ!ふぎゃっ!はふけて!ひゃあああ~~~~~っ!!
・・・・・・くはひ・・・はひ・・・ハヒィ」

何度も何度もスカンク娘たちが毒ガスを噴射しつづけると、そのうちシートの下からは
ぎゃあぎゃあも、バタバタも、ヒイヒイも聞こえなくなりました。
「はい、あなたはこれでおしまいね」

ブウウッ

仕上げのオナラをいっぱつ発射すると、スカンク娘たちはシートからお尻を引っこ抜き、
カバ太に被せたままシートの周りに荷物を置き、重しして動かなくしてしまいました。



「う・・・・・・ん・・・・・・・?」
ドーベルは、何時の間にか自分がベッドに寝かされているのに気づきました。
(そうか、俺たちはスカンクにやられて・・・。誰かに助けられたんだな。
でも何故うつぶせに寝かされているのだろう?
・・・ああ、なんか体が動かないな・・・すっかりニオイにやられてシビレちまったみたいだ。
これじゃ捜査はもう・・・人質の身が危ないっていうのに・・・・・・!!
・・・・・それにしてもやけに柔らかい枕だなぁ。
それにこのふわふわちらちらしてるものは・・・・・・)

「あら、お目覚めのようだねぇ」
頭の上から妖しい声が聞こえて、ドーベルはハッとして顔を上げようとしました。
ですが、体がまったく動かせません。ドーベルは自分がベッドにぐるぐる巻きに縛られているのが分かりました。
さらに、自分の頭のあたりをふわふわちらちら動いていたものがスカンクの尻尾だと分かり、
自分の鼻先が埋まっているのがスカンク娘のお尻だと分かると、ドーベルの顔は恐怖で真っ青になりました。
「ふがっ、ふがっ!!」
うまく顔を上げられず、お尻に顔を埋めたままドーベルが悶えるので、
スカンク娘―お頭は彼の頭をつかんで持ち上げてやりました。
「っぷはっ!ひ、人質は・・・それにカバ太は・・・!?」
「アンタの連れかい?さぁて・・・うちの子たちが随分と可愛がっていたようだけどねぇ」
「そ、そんな・・・カバ太・・・」
「人質のほうは・・・フフ・・・そろそろ5回目のが終わった頃かねぇ」
「・・・・・・!!」
カバ太の身を案じていたドーベルは、それを聞いて人質の身さえも危険な状態にあることを思い出しました。

「お頭ぁ~、あの子、もう限界みたいです~」
部屋の奥の扉が開いて、中から手下らしきスカンク娘が出てきて報告しました。
「ん・・・そうかい。小娘には刺激が強かったかねぇ。
いいさ、もう身代金は諦めよう。情けをかけておやり」
それを聞いて、ドーベルはホッとしました。
(ああ、これで人質の命だけは助かる・・・むぷっ!?)

お頭が手を離したので、ドーベルの顔はまた柔らかいお尻の中へ埋まりました。
「さぁ折角来てくれたんだ、アンタも可愛がってあげようねぇ」
お頭が言うと、手下のスカンク娘は素早い動作でドーベルの頭とベッドを丈夫な布で、
お頭のお尻ごと包む様にして縛り付けてしまいました。
「むぅ~・・・うぅ・・・」
人質は助かるのだから・・・ドーベルはそう観念したのか、大人しくなりました。
手下のスカンク娘はその上から毛布を被せ、さらに甲板にあったようなブルーシートを巻いて、
お頭の腰と、ドーベルの足のあたりをヒモでキュッと結びました。
しっかりと包み込まれたベッドの中がモゾモゾと動いて、お頭の太ももがドーベルの頭を挟み、
足はドーベルの背中を抑えるように伸ばされました。
手下のスカンク娘が部屋の外へ出た音が聞こえると、ドーベルの鼻先で何かがピクピクと動いたような
気がしました。
「さ、アタシのとっておきを味わいな・・・」

プス、スカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ

覚悟を決めて抵抗を止めたドーベルの鼻先に熱い空気がじわぁ~っと染み込み、閉じた目がいっぱいに
開かれて、体がビリビリと細かく震えました。
お頭の、音も無く放たれる強烈なすかしっ屁は臭くて臭くて、ドーベルは甲板のときみたいに
気絶することもできませんでした。
猛毒のガスはドーベルのするどい嗅覚をぐりぐりと痛めつけて、静かに静かに、止まることなく続きました。

「臭いよう!臭いよう・・・!」

静まり返った部屋に、ベッドの中からすすり泣くようなくぐもった声が漏れました。

スカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・・・・
「臭いよう!臭いよぉぉ・・・・・・!」

お頭スカンク娘のオナラは止みません。
ベッドの中のすすり泣きも止みません。

スカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・・・・
「臭いっ・・よぅ!臭いよぉ・・・っ・・・!」
止まらない毒ガスの噴射音と、弱弱しく、たまに裏返りながらも続くすすり泣きを、
お頭は手の甲を枕に伏せて、じっと聞き入っていました。






スカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・・・・
「臭いよう!臭いよぉぅ・・・・・・!
く・・・さい・・・よ・・・ぉ・・・・・・」

すすり泣きが毒ガスよりも先に止むと、お頭はすかしっ屁も止めずに満足そうに呟きました。
「さよなら、探偵さん」



その夜、村長の屋敷には、虚ろな目をしたウルルがふらふらと戻って来て、
家の人が何を呼びかけても答えずに、自分のベッドへ潜り込むと死んだように眠りました。

その後、ドーベルとカバ太の姿を見たものはいませんでした。






夜明け前――
暗がりの中でウルルのベッドから、人影がむっくりと起き上がりました。
彼女は、姿見にかすかに映る自分の羊毛に触れました。

―数時間前まで、スカンク娘の毒ガスに責め立てられていたウルル。

姿見の中の彼女が羊毛を引っ張ると、それはするりと剥がれ落ち、中から黒地に白の毛皮が現れました。

―かすかに音を立てるスカンク娘の尻を顔に押し付けられ、細かく震え悶えながらも
『お情け』で速やかに永久の安らぎを与えれた少女。

「お前、この娘に化けて屋敷に帰りな。それから―」
彼女はお頭の命令を思い出して、現在の時刻を確かめました。
(そろそろ時間だわ。もうすぐみんながこの屋敷に押し入ってくる。その前に―)



その前に少しでも『仕事』をやりやすくしようと、彼女は隣のベッドで眠っている、
ウルルのまだ幼い弟の側へ忍び寄り、ウルルのものだったスカートの裾をからげると、
ちょっと大き目のお尻を彼の顔へと近づけるのでした。


                                E N D