こうひー 著

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「3日後の夜に、吸血鬼審判を執り行う」
教会からの使者は手短にそう告げて去っていった。
吸血鬼――――そんなもの、現実に存在するものかどうか、少なくとも権力欲にとりつかれた司祭どもになど分りはすまい。
だがこの村の村長にとって、それはどうでも良いことであった。
教会から出される報酬は村を、そして彼女らの家を潤してくれる。
「今回はシェリーナになるかのぅ・・・」
つぶやきながら庭に出る。
どの家の畑も、この村の特産品の収穫で大わらわだ。
きっと今年のニンニクも豊作だろうと、村長は思った。

「行っておいでシェリーナ。しっかりね」
「うん・・・行って来ます。お母さん」
母親にだけ挨拶して、シェリーナは迎えのものに連れられ、この村の女たちしか知らない場所へと赴いた。
村の女性だけに伝わる秘儀。
興味本位で探ろうとした男が、次々と神隠しにあう、恐ろしい秘密。

シェリーナは驚いた。村はずれの廃墟の下に、こんな地下室があったなんて・・・。
「来たねシェリーナ。さあ、中へお入り」
促されるままに階段を下りると、たいまつに照らされた薄暗い部屋の中に、村の若い女性たちの中でも面倒見がよく、姉御肌で知られているメリッサがいた。

「・・・ちゃんと食べてきたかい?」
「あ・・・うん」
「じゃあ、この服に着替えて。キャシーとアリア、手伝ってあげて」
見た目よりも重い布の塊を渡されると、案内役であった2人の娘によって着付けが行われる。
妙な服だった。厚ぼったい、薄い黄色の地味な布地ではあったが、腰のくびれからスカートの裾まで、まるで高貴な女性たちが着るような形に膨らんでいた。
腰の所できつく巻かれたコルセットは、この日のために母親がこしらえた料理によって膨らんだ下腹には辛かった。

しかもスカートの裾の周りには、外側に重い金具のようなものがびっしりと縫い付けられていた。
腰から下が妙に風通しが悪い。

「ちょっとキツいだろうけど、我慢するんだよ。じゃ、行こうか」
メリッサが地下室の奥の扉を開くと、長い通路の先にまた扉が見えた。
「シェリーナ、しっかりね」
「がんばって、シェリーナ」
着付けをしてくれたキャシーとアリアの声に背中を押されるようにして、薄暗い通路を進むシェリーナと、その重い裾を持ってやるメリッサ。
「んっ・・・歩きづらい・・・」
「ここでやらないでよ?シェリーナ」
背中からメリッサの声が聞こえると、シェリーナは思わず顔を赤らめた。



「そろそろ、来る頃だな。」
たいまつに照らされた薄暗い部屋には、文官風の男が一人と筋骨隆々の拷問吏が二人。
それに部屋の中央には、若い男があぐらをかいた姿勢で座っている。
その胴体と手首は床に生えた金属製の柱に縛り付けられていた。
さらに首はかすかに斜め上を向いた状態に、専用の拘束具で固定されていたので、男は声を出すのも辛そうに見えた。
「お、俺は吸血鬼なんかじゃ・・・ない」
それでも必死に弁解する男を、文官は一瞥した。
「貴様に血を吸われかけたという証言があるのだ。調べぬわけにはいかぬだろう」
冗談じゃない!どうせ博打で金を巻き上げてやった奴らのデッチアゲだ!!
俺だけじゃない、吸血鬼裁判のほとんどが同じようなもんだろうが!!
男は思ったが、なにぶん体勢が苦しくて声を荒げる気がしない。
そんな様子を見て、文官が拷問吏に命じた。
「おい、もう少し首を起こしてやれ。息が通らぬでは話にならんからな。
・ ・・ん?来たようだな。扉を開けてやれ」

男の後ろで扉が開くと、二人の村娘がゆっくりと通り過ぎた。二人とも結構な美人であることは、薄暗い部屋の中でも見て取れた。
そのうち一人は地味なドレスに身を包んでいたが、その裾は床に触れるたびにカリカリと音を立てていた。
「ふむ、美しい娘だな」
文官が頷くと、シェリーナは恥ずかしそうに俯いた。
文官は縛られた男に向き合ってしゃがみこむと、説明を始めた。
「ではこれより審判を始める。この村の特産品は知っているかね?」
「・・・?確か、ニンニク・・・?」
「そうだ、吸血鬼はニンニクを恐れる。それを含んだ、清らかなる乙女の息吹もまた然り」
「・・・?」
「貴様が吸血鬼ならば、汚らわしいバケモノならば、耐えられずに息絶えるはずだ!」
それだけ言うと文官は立ち上がり、シェリーナに目配せする。
文官が退いた場所に、シェリーナが進み出て、床の男と目を合わす。
「あ、あの・・・その、よ、よろしくお願い・・・します」
顔を赤らめ、しどろもどろになりながら挨拶する村娘を見て、男は何が何だか分らずに目を白黒させていた。

「始めろ」
文官が命じると、2人の拷問吏が男の傍にしゃがむ。
シェリーナが不安そうな顔でメリッサを見ると、メリッサは力強く頷き、シェリーナを促す。
シェリーナはおずおずと男に近づくと、ゆっくりと踵を返した。
スカートの金具が、男の目の前にカチャンと音を立てる。見れば金具一つ一つに親指くらいの直径の穴が開いている。
今まで薄暗くて模様だと思っていたが、自分を取り囲むようにして、床にも同じくらいの大きさの穴が開いているのに、男は気づいた。

ふと顔を上げて、男は息を飲んだ。
目の前の村娘のスカートが拷問吏たちに高々と持ち上げられ、隠された若い娘のふくよかな尻があらわになっていた。
その体勢のまま、娘は後ろ向きに、男のほうに数歩歩み寄った。娘の尻は丁度、かすかに傾いた男のすぐ前にまで迫った。
「お、おい、何を・・・あっ、うわぁ!?」
突然、周りが暗くなった。
拷問吏は持ち上げたスカートの裾を、男の頭から被せるように落としたのだ。
ジャラン、と裾の金具が床に触れる音がした。

「動くな。危ないぞ」
シェリーナの頭上から、拷問吏に支えられた重い鉄の輪が下ろされた。
彼女をくぐらせるようにして足元に到達したそれは、スカートの裾の金具を床に押さえつけるように設置された。
さらに輪と金具と床の穴とをネジによって固定され、縛られていた男はシェリーナのスカートの中に密封された。
「では、頼むぞ。夜明け前にはまた来る」
文官は拷問吏たちを連れて、シェリーナたちの入ってきたのとは反対側の扉から出て行った。
彼らの足音が遠ざかったのを確認したメリッサは、懐からカラスのくちばしのようなマスクを取り出して装着した。
疫病を調べる医者のようなマスクであったが、くちばしには海綿のほかに、香草の類が仕込んであるそれがモゴモゴと揺れた。
「さ、始めるよ。シェリーナ・・・」
俯いていたシェリーナの肩がビクッと震えた。
「うう・・・ほ、本当にやる・・・の?」
「今更何言ってるのさ!ほら、体の力抜いて、ゆっくりでもいいからさ・・・」
「う・・・うん」
シェリーナは諦めた様子で目を閉じると、意識を下腹へと集中させた。

スカートの中の男は、自分の置かれている状況を考えていた。
(ニンニクを含んだ・・・清らかなる乙女の・・・・・・。
この状況で「息吹」なんてのは、やっぱり・・・アレ・・・だよな?)
暗くて周りの様子は見えないが、男は若い娘の体臭に包まれ、目の前に揺れるふくよかな尻の気配に、いささか興奮気味であった。
(よ、よし。おれは吸血鬼なんかじゃないんだから、ニンニクの屁なんかで死ぬわけ無いんだし、美人の尻なんか拝めたんだから、も、儲けモンだよな)
「は、はは・・」
恐怖心が薄らいで、安堵の声を漏らしたその時だった。

ぷぅ・・・しゅぅ

スカートの中に漏洩音が響いた。
(うへ・・・だ、出しやがった。さすがにクサ・・・!?)

「げばっはぁ!?ぶへっ!ぶげっへぇ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
シェリーナの尻から放たれた臭気は、男の呼吸を乱すほどのものであった。
「うぇー!!うげぁー!!臭ぇー!くせぇえー!!」
男は全身を震わせて暴れ、ギシギシと拘束が食い込んでもお構いなしに悶え狂った。

「ひ、ひぃ・・・」
シェリーナは自らの放屁でもたらした、男の狂いように恐怖を覚えた。
「メ、メリッサ!私・・・」
「しっかりおしよ!シェリーナ!!吸血鬼を成敗してやるんだ!!」
「うう・・・」
「さぁ、もう一発!!」

ぷうううっ ぶふぅ~~~~~~~~~~っ ぷぅっ

「うっはぁぁがぁはっ!!はっあ!あはっは!!」
男はなおも悶えていた。
もはやスカートの中には、さきほどまでの若い娘の甘い体臭は残ってはおらず、男の顔へと吹き付けられたシェリーナの強烈なガスだけが篭っていた。
男の顔を撫で回すようにして蹂躙したオナラは、特殊に加工された厚ぼったい生地に遮断され、2度3度と男を責め立てた。

ぶぶすぅ ぷううぅ~~~~~~~ぅ ぶぅーっ

「おごぇ!があぁ!!」
鼻から口から、乱れた呼吸をさらに掻き乱し、やんごとなき乙女のスカートの中で、男の意識は猛烈なガス嵐の中でもみくちゃにされた。

「はぁ・・・ふぅぅ・・・」
シェリーナは顔を紅潮させながら放屁を続けた。
(一時はどうなるかと思ったけど・・・なんとかなりそうね)
そんなシェリーナを見ながら、メリッサは安堵していた。
シェリーナは半ば恍惚としながら、自らのスカートに閉じ込めた男に向かって放屁をしている。
村に伝わる「血」がそうさせるのだろうか。メリッサは思った。

その時、恍惚の余り一瞬シェリーナの意識が薄らぎ、カクッと膝が折れた。
ハッとなって体勢を立て直すと、自らの尻が男の顔に沈む感触を感じてあわてて姿勢を正す。
彼女は我に返った。放屁が止まった。
「どうしたの?シェリーナ」
先ほどまで恍惚に染まっていたシェリーナの表情は、激しい羞恥の紅潮へと替わっていた。
「メリッサぁ・・・私・・・私、恥ずかしい・・・」
消え入りそうな声で目に涙を浮かべていた。
(まったく、この娘は・・・)
メリッサはシェリーナの傍まで来ると、マスクを外した。
シェリーナのオナラの臭気は、スカートの中に閉じ込められているため、ほとんど匂わなかった。
それでも強烈なのにはかわりは無いが、メリッサもかつては「吸血鬼審判」に携わったことのある、この村の娘である。耐性は備わっていた。
「いい?シェリーナ。この審判は私たちの村の乙女が代々受け継いできた神聖なものなの。
恥じるべき事など、どこにもないのよ」
「でも・・・恥ずかしいもん、男の人の顔にオナラなんて・・・・
それに、この人だってきっと吸血鬼なんかじゃないもん!!」
「シェリーナ・・・」
シェリーナの言い分も分かる。だが、審判を途中で終わらせるわけにはいかない。

「シェリーナ。もういいよ」
「・・・メリッサ?」
「もういい、この男は生き延びたんだ。無罪放免ってことになるよね」
「本当?本当にもういいの!?メリッサ!」
「あたしたちは村に帰る。この男も街に戻る。そしてみんなに言いふらすんだ」
「・・・・・・えっ?」

「『俺はニンニクの村の女の屁を浴びても生きてたんだぞー』ってね」

「ぁ・・・・」
「バレるね。あたしたちや、アンタの体質のこと」
シェリーナの顔が青くなった。
私の・・・私のオナラのことが・・・みんなに・・・知られちゃう!?
「ぃ・・・ぃゃぁぁ・・・」
「村の男どもにも知れ渡るよね・・・なんつったっけ、アンタの好きな、あの」

シェリーナの放屁が終わっても、スカートの中では立ち込める濃厚な屁臭の中、男が意識を朦朧とさせていた。
(もう・・もう吸血鬼でいい。早く楽に・・・してくれ・・・)
強烈きわまる悪臭の中で、朦朧とする意識の中で、それでも徐々に闇に慣れた男の目は白い球体らしきものを捕らえていた。
(あ・・・ニンニク・・・?でっけぇニンニク・・・・)
男の目には、巨大なニンニクがゆっくりと降ってくるのが見えていた。
やがて男の顔は、巨大ニンニクに埋もれた。
(この・・・ニンニ・・・ク・・・柔ら・・・けぇ・・・?)
柔らかい塊が、蠢動した。

すぅ・・・すぅぅ・・・すぅ~~~~~~~~~~~~~・・・・・・・・・・・・・・

生暖かい空気の塊が男の鼻腔に押し込まれた。
「・・・・んっ!?かっ・・・・!?!?」
男はオナラを直に注ぎ込まれて、全身に痙攣が走るのが分かった。
それほどまでに、シェリーナの、この村の女性のオナラは強烈だった。

すぅぅ~~~~~~~~~~ぷぅっすぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

濃くなってゆくオナラのニオイ。
もはやスカートの中は、シェリーナの凶悪なオナラガスのみが席巻する断罪の間と化していた。
「・・・・・っがぁ!・・・・っがはぁ!!」
男は白目を向き、歯をむき出しにして、必死に首を振って地獄の責め苦から逃れようとした。
それはまるで、吸血鬼が苦しみぬいているかのようであった。

薄暗い部屋に、男の暴れる音がギシギシと鳴る。
シェリーナは涙目になりながらも、それでも放屁を止めなかった。
秘密を漏らすわけにはいかない・・・・
生かして帰す訳にはいかない・・・・
・・・・・逃がさない!!
シェリーナの目が見開かれ、冷酷な光を湛えた。
「ごめん・・・なさい」

ぶぶぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!

スカートの布地を震わせるほどの爆音が響いた。
もはやスカートの中から、拘束具の軋む音は聞こえなくなっていた。

「よく頑張ったわね、シェリーナ」
「メリッサ・・・私・・・人を・・・」
「いいのよシェリーナ。アンタは吸血鬼を成敗した。ただそれだけなんだから」
「・・・・・・・・・うん!」
「さぁ、まだ時間はあるよ。ソイツが化けて出ないよう、しっかりトドメを刺しておあげ」
「うん!」

シェリーナは後ろを振り向いて小さくつぶやいた。
「・・・ごめんなさい」
口元に、かすかに笑みが浮かんでいた。

シェリーナは満ち足りた表情で目を閉じると、胸の前で手を組み、ゆっくりと、下腹に力を込めていった。




END