一騎当千の呂蒙に絞められた!】を御覧頂いてから見て頂くと、より楽しんで頂けると思います。



南陽高校の呂蒙子明に敗北してから、俺は闘士となった。

それは闘士を狩る事で有名だった陸省高校から、初めての闘士が産まれた事を意味した。

当然、陸省高校の二年生や三年生、更には俺と同学年のからの報復が必ずあると心していたが、事態は思わぬ方向へと進んで行った。

俺は闘士になる事を決意したその日に、陸省高校二年、三年の頭に会いに行き、俺の決意を示した。それは実質的に、陸省高校全員を敵に回す事を意味していたのだが、そうは成らなかった。

それどころか、この町で行なわれている「三国志を模した戦い」に陸省高校が、本格的に参入する事になった。

事の成り行きはこうだ。俺が南陽高校の一年を仕切っているヘッドをタイマンで倒したその日から、「三国志」のバランスは大きく崩れた。タイマンの翌日からは、大々的に「闘士狩り」を陸省高校ほぼ総出で行なった。

その流れが、新たな「三国志の物語に関連する第三の勢力」として、陸省高校が闘士達の中で認知されたのだった。

更に、俺の通っているボクシングジムには、多くの闘士達が正体を隠したまま練習に参加していたらしく、「陸省高校一年の杉浦」という名前は、彼らを媒介にしてあっという間に町中に広がった。

その名前の尾ひれには、「その陸省高校の杉浦を潰す為に、あの南陽高校四天王の一角である、呂蒙子明が動いた。」という勝敗を排した表面だけの事実が一人歩きし、俺の名は彗星の如くこの町に出現する形となった。

つまり、俺が闘士になる、ならない。をどうこう判断する以前に、陸省高校は、この町の「三国志」に巻き込まれたという事だった。

元々、血の気の多い男子校、陸省高校。既存の闘士達を狩る事が出来る高いポテンシャルを持った連中がゴロゴロいる。

「自分の強さをこの町で示す為に、闘士になる。」そういう文脈を、俺を含めた陸省高校の生徒達は備えていた。

「三国志」の仲間入りを果たした今は、陸省高校で闘士狩りや、カツアゲなどを話題に上げる者は1人もいない。

俺たちはこの町の三国志の歴史を制するべく、動き出したのだ。

時を同じくして、もう1人。「陸省高校一年の杉浦」と同じ様に彗星の如く、この町に名を轟かせた女が居た。

「涼州高校一年の馬超孟起」

以前に、彼女は単独で他校に襲撃を掛けた事件で話題となり、今からちょうど一ヶ月前に南陽高校に「腕だめし」という名目で襲撃して、南陽高校に多大な損害を与えた。

しかし彼女は最終的に、呂蒙子明に関節技を極められ、それでもギブアップせず、最後は絞め落とされたという事だった。

同じ様に呂蒙に敗北した奴が俺の他にもいる。その事実は同時に、いずれ「どちらが先に呂蒙を倒すか」という文脈へと変わって行くだろう。

そして、馬超孟起という女も、いずれ俺と戦う事になるだろうと予感しているに違いない。

涼州高校と陸省高校は、地理的に町の端と端に位置するので、当面衝突する事はないだろうと思っていたが、俺の認識が甘かった。

____一ヶ月後


「おい、杉浦。お前、ボクシングばっかりじゃなくて、何か他の格闘技も齧っておいた方が良いんじゃないのか?「闘士」はいつもリング上で殴り合うわけじゃないだろ。」

ジムでシャドーボクシングをしている俺に話しかけて来たのは、南陽高校一年の元ヘッドだ。そう、俺が潰した「あのヘッド」だ。

「いいんだよ。下手に色々な格闘技に手を出すより、1つを極めた方がよっぽど実践的だ。」

「闘士」というのは不思議な生き物で、一度戦った相手に何かしらのシンパシーを感じるものらしい。俺たちが普通の会話をするようになるまで、そう時間は掛からなかった。「お前の強さの秘訣教えろよ」と、俺のジムの門を叩いて来た元一年ヘッドに、俺は好意すら覚えたのだ。戦った間柄だからこそ、共有出来るものがあるのかもしれない。

「確かにお前の打撃は急速に伸びてはいるが・・・お前呂蒙先輩には絞め技で負けたんだろ?絶対、対策とか練っておいた方がいいぞ。」

「お前の所の呂蒙先輩は、関節技のエキスパートなんだろ?じゃあ、俺は打撃のエキスパートになったって言い訳だろ?」

何を言っても無駄だと思ったのか、元ヘッドは飽きれたようにその場を去って行った。

その後も、俺は1人黙々と自分で定めたメニューをこなした頃には日も落ち、すっかりジムからは誰も居なくなっていた。

「今日も俺が戸締まりか・・・」俺の練習時間があまりにも長いので、ジムのオーナーは俺に合鍵を用意してくれている。だが、最後の戸締まりをする変わりに、俺はジム内の掃除を全て行なわなければならない。

ジムの電気を最低限ものが見える程度に落とし、掃除をしていると、

「良かったら、ボクも手伝おうか?」と突然声をかけられた。

振り向くとそこには、明るく染めた髪を後ろで束ね、前髪は印象的なピンク色のヘアピンで止めている女の子が、制服姿で立っていた。

「いや、もうジムは閉まってるし勝手に入って来られちゃ・・・」と彼女をもう一度冷静に見てみると、彼女の来ている制服は「涼州高校」のものだった。

彼女は俺が「察した」事に気づいたのか、自己紹介を始めた。

「初めまして。ボクは、馬超孟起。君とボクってどっちが強いのかな?」 

自分の事を「ボク」という女の子を過去に見た事がなかったが、彼女が言うと、とても自然なように感じられる。それにしても、南陽高校に単独で襲撃を掛けたという噂は耳にしていたが、まさか本当に敵の縄張りに突っ込んでくるとは。

「はじめまして。いずれ君とは戦う事になるだろうと思っていたけど・・・」

「じゃあ、今からやろっか♪出入り口はカギもチェーンもちゃんと掛けたから、戸締まりは大丈夫だよ」

彼女はピンク色のオープンフィンガーグローブを装着し、準備体操を始めている。こっちの用事や、事情は一切関係ないようだ。まぁ、その辺が解る子であれば、1人で他校に襲撃には行ったりしないのかもしれない。

俺は諦め、彼女と戦う事に決めた。そう時間は掛からないだろう。彼女もサブミッションで呂蒙に敗北している。つまり彼女は打撃系のパワーファイターのはずだ。そして、俺も「打撃系のパワーファイター」であり、ボクシングの心得もある。俺よりも細身である彼女が俺よりパワーファイターのはずがないのだ。

「やる気になってくれたみたいだね?ここは戦うには打って付けの場所だしね♪」彼女は俺の心情を読み取ったように、1人ジムのリングに上がった。

「まさか、そのままの格好で戦うのか?」俺は掃除用具をその辺に置き、自分の手にボクシンググローブを装着しながら彼女に聞くと、

「君も『闘士』の時は、グローブなんて付けてないんじゃないの?」と笑いながら返してきた。

確かにその通りだ。俺は、装着しかけていたグローブを外し、リングに上がった。そういえば、グローブを付けずにボクシングリングに上がったのは初めてかもしれない。何処か違和感を感じる。それにボクシングのリングを、『闘士』の戦いの場として使っていいのだろうか。

「リングで一度戦ってみたかったんだよねぇ♪」と、馬超はリングで無駄に飛び跳ねている。と次の瞬間、彼女は突然俺との間合いをつめ、顔面にハイキックを叩き込んで来た!

バシッ!!! 

俺は彼女のハイキックを片手で受け止め、彼女の軸足を払った。

ゴトンッ!

彼女は尻餅を付いた状態で、俺を見上げながら、「あれ?ばれてた?」と舌を出した。

彼女は無駄にリングで飛び跳ねていたが、それが段々規則的なものへと変わって来ていたのだった。無論、リズムが変わった瞬間に馬超は飛びかかって来ていたが、俺はそのリズムの変化の瞬間をうまく掴む事が出来ていたのだ。

「いやだなぁ。君もボクと同じパワーファイターでしょ?君とはあまりど突き合いたくないんだよね。痛そうだし・・・」

彼女が俺の前でゆっくりと立ち上がるのを見ていたが、パンッ!という乾いた音と顎に軽い衝撃が走ったと思うと、俺の視線は天井に移動させられていた。

「あはっ♪サマーソルト極めれちゃった♪でも、君凄いね。今ので倒れないなんて身体の軸が本当にしっかりしてるんだね」

彼女自身が自らを「パワーファイター」だと言っていたし、俺もそう思っていたが、正確には違う。彼女の脚力のバネが強力なのだ。一気に間合いを詰めてくる程の、立ち上がる瞬間にサマーソルトを極めれる程の、脚力だ。つまり、俺が当初予想していた、パワーファイター同士のパワーだけを駆使した潰し合いにならない。彼女がそれに気づく前に!!

シュッ!! シュッ!!

俺は短いジャブを打ち、彼女との間合いを詰めた刹那、俺は自分の身体を反転させ、裏拳を放った。

ブンッ!!と空気を切り裂く音と同時に彼女の胸の辺の衣服が破れた。

俺の突然の反撃に対処出来なかった彼女は、直撃は避けれたが、それによって彼女の胸の片方に付けているピンクのブラジャーが露わになった。

「あぁ!もう!!制服が破けちゃったじゃない・・・って、あれ?何見てるの?」

彼女にそう言われ、俺は彼女のピンクのブラジャーに目が釘付けになっていた事に気がついた。俺は瞬時に目を反らしたが、遅かった。いや、むしろ瞬時に目を反らした事が彼女に俺の弱みを握らせる事になってしまった。

「あれぇ?そっかぁ。陸省高校って男子校だったよね〜♪もしかして君、呂蒙以外に女の闘士と戦った事ないんじゃない?言うもんね。陸省高校は『硬派』だって」

彼女の指摘する通りだった。陸省高校は出来るだけ女性闘士との対戦を避けている。別に女性闘士を卑下したり、馬鹿にしているわけではない。ただ苦手なのだ。無論、闘士は圧倒的に男の数が多いので、女性闘士を避ける行為は、実質的な問題にはなっていなかった。

「アハハ!君可愛いね。目のやり場に困ってるの?それじゃあ!!」

彼女が一瞬俺の視界から消えたかと思うと、俺はその場に倒された。両足タックルを仕掛けて来たのだ!

彼女は俺を両足タックルで倒すと、一瞬の隙も与えず、俺の胸の上にのしかかって来た。

「フフ・・・君の倒し方解っちゃったかも♪ほら、このマウントポジションから逃げれる?」

俺は彼女を胸から下ろそうと、自分の身体を揺らしたり、彼女を突き飛ばそうとするが上手く行かない。それも当然だ。俺はいま彼女を直視する事が出来なくなっているからだ。

しかし、妙だ。俺が呂蒙と戦っていた時は、こんな相手を直視出来なくなるような事などなかった。

なぜだ?

なぜ呂蒙とは戦えて、馬超孟起には「女」を感じてしまうのだ。そう自問していると、ほのかに香る甘い香りが俺の鼻の奥を付いた。彼女が付けている、甘い香水の香りだ。

馬超孟起に特別「女」を感じたのではない。呂蒙が異質過ぎたのだ。

俺が以前に対峙したのは、自分より2つ年上の先輩であり、実力の差が圧倒的で、尚かつメイド服に身を包んだ、非現実感を漂わす、呂蒙だ。

今俺が対峙しているのは、闘士と言えど、自分と同じ歳の女の子なのだ。彼女に非現実的な要素はない。彼女は「女」という、ただ当たり前の現実を俺に突きつけているのだ。

「君に女闘士の怖さが、どういうものか刻んであげるよ♪」

彼女は一瞬不敵な笑みを浮かべたと思うと、彼女は自分の太股を俺の頭の後ろに滑り込ませ、俺の右腕を掴んだ。そして、掴んだ俺の右手をそっと彼女のブラジャーに当てたかと思うと、俺の世界が一回転した。

「あはは!こんなに簡単に極まるんだね♪マウントポジションからの三角絞めって。ほ〜ら、絞めるよ!」

ぎゅううううううううううううううう!!!

ぎゅううううううううううううううう!!!

彼女の鍛えられた太股が、俺の首を急激に圧迫していく。だが、以前に呂蒙に喰らわされた三角絞めとは、明らかに性質が違う。呂蒙の絞めは、細長いタオルでゆっくりと締め上げられて行くような感じだったが、馬超孟起の三角絞めは、2つの大きな丸太で首を圧迫されているようだ。

「・・・痛てぇ・・な!くそ・・・」

「あれぇ?痛い?こっちは『絞めてる』んだけどなぁ。あんまり三角絞めって、使ったことないから上手く決まってないのかな?でも、幸せでしょ?女子高生の太股に挟まれてさっ!!」

ぎゅうううううううううう!!!!

ぎゅううううううう!!!!!!

彼女のムチムチとハリのある太股が、まるで挟みのように俺の首を圧迫してくる。彼女の超人的な脚力を支えているのは、彼女の脚の筋肉だ。その筋肉は普段、打撃や跳躍などでしか使われていないためか、まるでレンガのように固い。

「呂蒙にも絞め落とされて、ボクにも落とされて・・・君とこれから戦う女闘士は、みんな君に寝技とか関節技使ってくるだろうね♪だって、グラウンドに引きずり込んだら、君は女の子の餌食になるしかないみたいだもんね♪」

ぎゅううううううううううう!!!

彼女は自分の胸に当てていた俺の腕を解放したかと思うと、俺の後頭部を更に彼女の太股の付け根の方へと押し込んだ。そして、足を組み替え、俺の首の付け根が、Vの字になっている彼女の太股の付け根にガッチリとはめ込まれた。

ぎゅうううううううううううう!!!!

「アハハ!がっちり極まったから、もう逃げられないね?・・・脚力はボクの一番の自慢だし♪楽しみだな、人を絞め技で落とすの初めてだから」

彼女は、もう一度俺の後頭部に手を掛け、体勢をひねり思いっきり俺を絞め上げる!!

ぎゅううううううううううううう!!!!

ぎゅううううううううううううう!!!!

苦しさのあまり彼女の太股に手を掛けると、彼女の冷たい太股は固く硬化し、彼女の筋肉が「俺を失神させる」という明確な意志を持っているように思えた。

彼女は人が、自分の太股絞めによって落ちる瞬間を見たいのだろう、笑顔で俺の顔を覗き込んでいる。

俺は彼女の香水の香りと、汗の臭い、それにピンクのパンツから香る、生臭い女の香りの中で、意識をゆっくりと失っていく。

「あっ!」

彼女が驚いた顔を見せたかと思った瞬間、俺は意識を失った。

______

____

__


「起きた?」

目を覚ますと、そこには心配そうに俺の顔を覗き込む馬超孟起の姿があった。

「君を殺しちゃったのかと思って、ビックリしたよ。まだ動かない方が良いと思うから、掃除は私がやっとくね♪」

「掃除?・・・あっ。そうだ」

軽い記憶障害起こしてしまったのか、自分の身に起きた出来事の時系列がめちゃくちゃになっている。リングで横たわる俺を尻目に、馬超孟起は慣れた手付きで掃除を初め、俺より効率よく更に丁寧に行い、普段俺がダラダラと30分掛かる所を、10分程度で終わらせてくれた。

掃除を終えた彼女は、リングに横たわっている俺に手を差し伸べ、俺を起こした。

「またやろうよ。今日は運が良かっただけで、君にはまだ完全に勝ってない」

「次は俺からお前に会いに行くよ。」

それを聞くと彼女はニッコリと笑顔を見せ、リングからまるで体操選手のアクロバットのように、高く跳躍し、リング下に着地した。

彼女が去って行く後ろ姿は、普通の何処にでもいそうな女の子に見えた。



____一週間後


「おい、杉浦。お前、ボクシングばっかりじゃなくて、何か他の格闘技も齧っておいた方が良いんじゃないのか?「闘士」はいつもリング上で殴り合うわけじゃないだろ。」

「お前の言う通りかも知れないな。」

「確かにお前の打撃は急速に伸びてはいるが・・って、はぁ?」

俺の思わぬ返しに元ヘッドは驚いたようだった。

「俺は、ボクシングで強くなるんじゃなくて、闘士として強く成りたいんだよ」

そう元ヘッドに伝えた時、俺はどんな表情をしていたのだろう。

元ヘッドは「何を言っても無駄だな」という表情を俺に向けたあと、笑った。

彼が笑った時に、彼の左耳に付けている勾玉が太陽に反射してキラキラと光った。

そして自分の勾玉も彼の勾玉のように光り輝いているのだと、

そう確信する事が出来た。