俺はこの町で闘士と呼ばれる連中が嫌いだ。

奴らは三国志の争いとやらを模して、格闘ごっこをしている。女もその格闘ごっことやらに興じているのだから笑いものだ。強さを追求するのは男だけで十分だ。

俺は一週間前に南陽高校の1年のヘッドとタイマンを張り、俺が勝った。そいつも闘士という事だったが、全く俺の相手ではなかった。



俺は中学の時からボクシングをしている。ボクシングのプロを目指してるわけではなく、ただ喧嘩で使えるからだ。自分と同じ歳ぐらいの奴だったら大体勝ち越している。

「おう、杉浦。今日も闘士狩りに行くか?」そう話しかけて来たのは、学校の友人だ。

「いや、今日はいいわ。適当にお前らでやってこいよ。」俺は学校が終わった後、ボクシングジムに行こうと思っていたので、その誘いを断った。

俺の通う陸省高校では、闘士をリンチしたり、カツアゲしたりする事が流行っている。対して強くもないくせに、この町を我が物顔で歩く事は許されないのだ。陸省高校が本格的に闘士を狩り始めたのは、俺が南陽高校の1年ヘッドを倒した次の日からだ。今まで溜まっていた鬱憤をはらす様に、毎日どこかの闘士を狩っている。


シュッ! シュッ! 

ジムでシャドーボクシングのトレーニングをする。自分の動きが直線的になり、繰り出すパンチが最短距離で目標に向かうよう、神経を研ぎすます。他の連中が、勉強している時間、カラオケに行っている時間、名前だけの闘士を狩っている時間、俺はその時間をボクシングに費やす。

日々のストレス何かより、誰かに負ける事の方がよっぽどストレスだ。

シャドーボクシングのトレーニングを終え、一休みしているとボクシングジム内が急に騒がしくなった。その騒がしさの方に、目を向けると、そこには左目に眼帯をしたメイドの格好をした女がジムに入って来ていた。ボクシングジムにメイドの格好という不釣り合いな組み合わせに、眼帯をしているためか、その女からは異様なオーラが漂っていた。

「杉浦というのは、どいつだ?」という問いに、ボクシングジムの先輩はアイツです。と俺の方を指差した。トレーナーや先輩が俺の方を好奇の目で見ている。俺は困惑しながらも、立ち上がりそのメイドの格好をした女と向き合った。

「お前に渡しておくものがある。」そういって、メイドはポケットから陸省高校と書かれた生徒手帳を3つ取り出して、俺に手渡した。

「私がこれを持っていてもしょうがないからな。お前づたいで、これを返しておいてくれ。」

俺は受け取った三人分の生徒手帳の中を見ると、放課後、闘士狩りに向かった三人のものだった。

「これはどうしたんだ?」と俺の問いかけを無視した。そして、彼女は怪しい笑みを浮かべながら、

「もし私に用件があるなら、今日の21時に南陽高校近くの地下駐車場で待ってる。」と言い残し、さっさとボクシングジムから出て行ってしまった。

全く状況を理解出来なかったが、3人に何かあったのかもしれない。という直感だけはあった。俺はすぐさまトレーニングバッグから携帯を取り出すと、不在着信が13件と表示されていた。嫌な予感がし、不在着信のリストを開くと、3人の名前でリストは埋められていた。

俺はそのうちの3人に電話を掛けた。

そのうち2人は電話が繋がらなかったが、最後の1人でやっと繋がった。その1人から事情を聞くと、
放課後3人は、いつものように闘士狩りに町へと繰り出した。闘士は勾玉の形をしたピアスをしているので、それを目印に襲う。今日はメイドの格好をした可愛い女がいたので、暴行を加えた後に3人で行為を行なおうと、路地裏に連れて行った所、メイドの女に返り討ちにされ、1人は失禁し、1人は右腕を折られたとの事だった。 最後に友人は、「お前も狙われてるかも知れない」と言っていた。

その最後の一言で合点がいった。メイドの女は、俺のボクシングジムの場所を知っていた。つまり、闘士狩りに参加した事がある、あるいは関係している連中は、逆に今、闘士達から狙われているのだろう。遅かれ早かれ、この事態は必然的に起こるものだったのだ。

俺は早々にボクシングジムでの練習を切り上げ、早々に地下駐車場へと向かった。

メイドの女と会う場所が南陽高校近くなので、恐らく南陽高校の複数人が俺を待ち伏せているだろう。その場合は改めて、陸省高校全体で南陽高校を潰しに行けば良いし、もしメイド女1人だった場合はさっさと片付けてしまえばいい。

どちらの選択を取るにしても、俺が先に地下駐車場でメイドの女1人、あるいは複数人を待ち伏せする必要があるのだ。


21時が回った。

そこに現れたのは、メイドの格好をした女1人だけだった。俺は地下駐車場の入り口や出口にも他に人がいない事が確認し、メイドの女と対峙した。

「陸省高校の複数人で来ると思っていたが、杉浦1人で来たんだな。」とメイドの格好をした女は言った。

「お前こそ、女1人で男とやろうなんて良い度胸じゃねぇか。」

「口の利き方がなってないな。私は南陽高校三年の呂蒙子明だ。私はお前より2個先輩だぞ?うちの生徒もお前にはお世話になったようだし、いろんな意味でお前にはお灸を据えてやらないといけないな。」 そういって、呂蒙はブルーのグローブを装着し始めた。

「さぁ、いつでもいいぞ。試合の開始はお前のタイミングで・・・」呂蒙が言葉を終える前に、俺はやや外角を通る右パンチを呂蒙の顔面に向けて放った。だが、それは寸での所でかわされてしまった。

「女を殴る趣味は俺にはないんだけどな。だが、『普通の男3人』ぐらいだったら病院送りにしちゃうような女だったら話は別だ。」

呂蒙を襲った3人は決して強いとは言えないし、俺がいないと何も出来ないような連中だ。しかし、あいつらは腐っても男なのだ。普通、男3人が女1人に向かって行けば必ず勝てるのだ。だが、この女は明らかに例外だ。

「フフ・・中々見込みがあるじゃないか。外角を通る右パンチは、眼帯を付けている私の死角を突こうとしたんだろう?うちの闘士が倒されたのも決して偶然ではないということだな。」

この女、暴力に慣れている。俺が繰り出した右パンチを何とも思っていない。今まで俺が戦って来た相手は、必ず俺の攻撃が当たるにしろ、当たらないにしろ、リスポンスが必ず存在した。俺の攻撃を見て戦意を喪失した奴もいたし、頭に血が上った奴もいた。だが、呂蒙からは一切の反応がないのだ。

「隙のない構えで、フットワークも良い。お前も闘士の道を志せば、今よりずっと強くなれるというのに・・・まあ、少し遊んでやる!」

そういって、呂蒙は一気に俺との間合いを詰めて来た。俺は条件反射的に、右ストレートを呂蒙顔面めがけて繰り出した。

「掛かったな♪」

呂蒙は、俺の右腕を掴み、そして花びらのように両脚を広げ、太股で俺を包み込んだ。そして、呂蒙に絡み付かれた状態で、俺は冷たいコンクリートの上に呂蒙と共に倒れ込んだ。

ぎゅううううう!!!!!!!!!!!

俺は呂蒙に何をされているのか、全く解らない。ただ、首を絞められ、頭がボーッとしてくるのが解る。

「・・・なんだこれ・・・とれねぇ!!」

「フフ、、無駄だよ。これは私の得意技、三角絞めだ。ストリートの喧嘩ばかりじゃ、こんな技喰らった事ないだろう?どうだ一年生?失神してみるか?」

呂蒙は体勢を少しずつ変え、技の極まり具合をより強固なものにしていく。俺は必死に呂蒙の三角絞めからの脱出を試みてみるが、呂蒙の指摘通り、こんな技を喰らった事がないので対処の仕方が解らない。

「どうだ?2つ年上の他校の女に絞められるっていうのは屈辱か?お前のやってるボクシングも私の前ではまるで歯が立たない。ほらほら、良いのか?何の抵抗もしないと落ちるぞ?」

俺の首回りには完全に呂蒙の太股が吸い付く様に絡み付いている。それに、俺の利き腕である右腕も完全に決められ、全く自由が利かない。

この女の得意な格闘スタイルはサブミッションであると、俺は予期出来たはずであった。3人の友人のうち、失神させられた者が1人、腕をへし折られた者が1人だ。女なら勝てると安易な発想に流れていた自分を恨んだ。

「くそっ!」俺は空いている左拳に力を入れ、思いっきり呂蒙の太股を叩いた。

「ハハハ!なんだそれは?体重も乗っていない、スピードも、勢いもないパンチが私に効くとでも思っているのか?それなら・・・」

ぎゅうううううううううううう!!!

呂蒙は更に太股に力を入れて絞め上げる。俺は絞め上げられながらも必死で呂蒙の太股に打撃を続ける。しかし、呂蒙は太股に力を入れているため、太股が硬化し、俺はまるで壁を殴っている様な錯覚に陥る。

「どうだ?地獄だろう?いくら男のお前のパンチでも、鍛えた女の脚力には適わないのさ。フフ、、、少しずつ体が痙攣して来てるな?私の太股でオネンネか?」

ぎゅうううううううううううううう!!!!

「いつでも諦めて失神していいぞ?私の三角絞めの餌食になった闘士は何百人といる。お前もその闘士達と同じ運命を辿るのだ。光栄に思え。」

呂蒙は、三角絞めで巻き込んでいる俺の右腕を極める事をもうやめている。俺は自分の右腕を動かせないほど、消耗させられているのだ。

「・・・くそっ・・・」俺は朦朧とする意識の中で、最後の悪あがきをするために、もう一度自分の左手に力を込め、呂蒙の太股にパンチを入れようと、三角絞めを掛けられつつも、左腕を後方に目一杯振りかぶったその時、

フッ、、、っと、首の周りから呂蒙の太股が離れていった。三角絞めは解かれたのだ。

俺は何が起きたのか解らず、呂蒙の顔を見ると、彼女はサディステッィクな笑みをこちらに向けている。

違う、呂蒙は三角絞めから俺を解放したんじゃない。これは彼女の次の攻撃だ!

俺は一刻も早く立ち上がらないといけない。グラウンドでは、この女には適わない。

立ち上がろうとした時、自分の右手首に手錠がはめられている事に気づいた。呂蒙が三角絞めを解くと同時に、俺の右手首に手錠を掛けたのであろうが、右腕を強く圧迫されていたために、俺は手錠をはめられた事さえ気づかなかったのだ。

「・・・おそい・・・」呂蒙の声が自分の背後から聞こえた事で、呂蒙が自分の目の前から姿を消している事に気づいた。

俺が後ろに振り向くより早く、呂蒙は俺の右腕と左腕を俺の背中でクロスさせた。

カシャン。

俺の左手首に冷たい金属がはめられた事が、今度ははっきりと認識出来た。俺の両手は、後ろで完全に拘束された。そして、呂蒙の体重がうまく乗ったローキックを入れられ、俺はまた呂蒙の巣であるグラウンドに倒れ込んだ。後ろ手にされているために、顔面から地面に伏してしまい、その結果、鼻血も出始めた。

「狩っていた<闘士>から、狩られる気分はどうだ?」呂蒙はそう言いながら、俺の髪の毛を掴み、俺を仰向けに寝かせる。

そして、呂蒙は俺の頭を少し地面から上げ、引き締まった太股を俺の首周りに巻き付け、4の字を描いた。先程の右腕を拘束されながらの三角絞めとは違い、呂蒙の太股だけで完全に首を極められている。

「普段は使わない技なんだがな。首4の字固めだ。お前の腕を手錠で拘束させてもらってるからな。もがく事も、あがく事も許されない。」 

呂蒙はジワジワと太股に力を入れ始めると同時に、両手を後ろに付き、少しずつ腰をあげてくる。

ぎゅうううううう!!!!!!!!!!!!!!

「フフ、、、ちゃんとトイレは済ませたか?お前の仲間の1人は私の絞めで失禁していたぞ。」

ぎゅうううううううううううう!!!!!

呂蒙は容赦なく締め上げてくる。俺は鼻からの出血による呼吸困難な上に、涎や鼻水が次から次へと溢れ出て、さらに苦しくなる。

俺は必死に体を捻り、呂蒙の首四の字固めからの脱出を計ろうとするが、手錠の擦れる金属音だけが虚しく地下駐車場に響くだけだった。 

「お前が闘士に目覚めたら、また戦ってやる。本気で私に勝ちたければなっ!!」

ぎゅうううううううううううう!!!!!

ぎゅうううううううううううう!!!!!

呂蒙の太股が一気に硬化し、同時に呂蒙は後ろに付いた手をピンっ!と伸ばし、腰を最大限までに上に持ち上げた。

目の上からゆっくりとカーテンが降りて、俺は意識を失った。


____________

俺は目を覚ました。

どれぐらい意識を失っていたのか解らない。

地下駐車場には自然の光が入って来ない。人工物の明かりには昼夜の感覚がないのだ。

あたりを見回すと、呂蒙の姿はなかった。メイド姿をした女に絞め落とされたという事実は、何処か現実感を欠いていた。まるで夢の中の出来事のような気がする。だが、手首には手錠の後がくっきりと残され、手錠をかけられていた後がジンジンと痛んだ。

この痛みが、呂蒙に絞め落とされたという事実を俺に信号を送るかのように伝えていた。

ゆっくりと立ち上がろうとした時、俺は小さく冷たいものに触れた。

闘士が付ける勾玉が1つ転がっていた。

俺はその勾玉も左の胸ポケットに入れ、立ち上がった。

もう日は昇っている。

そういう確信だけが、俺にはあった。