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リングの上では激しい攻防が繰り広げられている。

鍛え抜かれた2人の男女の肉体がぶつかり合う音が観客席にはっきりと聞こえるほど、両者の戦いは白熱していた。

リングの上で巨木のようにガッチリと立っている男はユウスケという男子プロレスの若手のエースだ。男子プロレスの中で、史上最速、至上最年少で優勝を果たし、今後、男子プロレス界はこの男に牽引されていくだろうと噂され、更にはその端正な容姿と鍛え抜かれた風貌で、世間のプロレスの認知度も大きく上げる事にも貢献した。


だが、皮肉にも、ユウスケの活躍と比例するように男子プロレスが女子プロレスよりも圧倒的に弱いという事が世間に知れ渡る事となった。世間も最初はあくまで、「エンターテイメント」として男が女に負けているのだろうという風潮であったが、男と女が試合を重ねれば重ねる程、それがテレビで放映されればされるほど、女子プロレスの方が強いという確固たる事実が、世間に広く知れ渡る様になった。

そんな男子プロレス界の現状を打開すべく、ユウスケは男子プロレスの名誉挽回のために立ち上がる事となった。

ユウスケ自身、女とのプロレスは初めてだったが何ら問題はないと自身で思っていた。普通にやれば、絶対に勝てるという自信もあった。今まで負け続けていたのは、先輩達が弱かったせいだとユウスケは思っていたし、ユウスケの先輩である男子レスラー達も、「ユウスケなら、いける。」と誰しもが口を揃えていった。

ただ、ユウスケが気がかりだったのは試合形式と人選だった。

女と対戦するという事で、2vs1のハンディキャップマッチを組まれたり、凶器を平気で使うようなヒールレスラーなどが相手になるような事があれば、どんな大番狂わせになるか解らないし、敗北した後に「凶器を使われたせいで、負けた。」などと言えば笑い者になるのは目に見えていた。

だが、ユウスケの不安とは裏腹に女子プロレス界は、1vs1の試合形式で「リカ」という至極真っ当な若手の女子レスラーを対戦カードとして挙げてきた。

リカはユウスケより、三歳若く、ベビーフェイスのレスラーとして活躍している。派手な得意技やパフォーマンスはないが、非常に堅実に幅広いプロレス技を丁寧に繰り出す。ユウスケのような輝かしい実績はないが、正当派プロレスラーとして根強い人気がある。ユウスケは自分の勝ちを確信した。「後は乱入さえなければ、勝てる。」試合当日には男子プロレス界総出で「乱入」を防ぐため、ユウスケとリカの試合を見守り、試合の後は、ユウスケの勝利を皆で祝おうと男達は盛り上がった。


リングの上では、相変わらず激しい攻防戦が続いている。リカは、ローキックを放っては距離を取る。ヒット&アウェイを繰り返し、ユウスケは静かにリカの動向と隙を伺っている。

「ユウスケさんって強いんですねぇ〜♪女子プロレスに転向すれば、頑張れば二回戦ぐらいまでは行けるんじゃないですか?他の人達はせいぜい一回戦で10分持てば良い方かもしれませんけどね。」リカはヒット&アウェイをやめ、ユウスケと距離を取った。

ユウスケは、リカが何かを繰り出そうとしている事を悟り、無言で警戒する。

「ホントに鍛えていて偉いと思いますよ。本当に鋼鉄みたいな体で。でも、それじゃあ二回戦なんですよねぇ、、、これとかどうですか?」

リカは一気にユウスケとの間合いを詰め、ユウスケに飛びかかった。その際、ユウスケの右腕を鍛え抜かれた太股で巻き付け、グラウンドへと倒れ込んだ。

飛びつき腕十字固めだ。

リカは上体を反らし、腕ひしぎを「完成系」へと近づけようとするが、ユウスケはとっさに反応し、奪われようとしている自身の右手を左手で掴む事で、技が完全に極る事を防いだ。

そして、ユウスケは信じられない事に、右腕に絡み付いているリカを寝ている状態で持ち上げ、グラウンドにリカを叩き付けた。ドスンッ!!と音が鳴り響き、観客から歓声が湧いた。低空からの叩き付けであったので、リカにダメージを与える事は出来なかったものの、一瞬の隙を作り出し、ユウスケはリカの腕ひしぎからの脱出に成功した。

だが、立ち上がろうとしたユウスケはヨロメキ、またその場に倒れてしまった。

「凄いパワーでしたねぇ。でも、どう頑張っても「鍛えられない場所」ってあるんですよ?例えば、私がローキックで散々イジメてあげた、右足首の付け根とか・・・・頸動脈とか♪」リカはそういって、ムチムチの太股をユウスケの首に巻き付け、綺麗な首4の字固めを形成した。

ぎゅうううううううううううううう!!!!!

リカは後ろに手を付き、腰をあげ、一気にユウスケを締め上げる。

ぎゅううううううううううううう!!!!!

「あははっ。脳にいく酸素を止めちゃうと、どうなるか知ってます?どんなに体を鍛えていても、一瞬で意識が飛んじゃうんですよ?私の首4の字固め、完全に極ってますよ?どうします?逃げます?でも、逃げようとしても、逃がしませんから☆あははっ。」

ぎゅううううううううううううう!!!!!

「あははっ、どうやら証明されたみたいですね?ほら、どうしました?タップしないんですか?」リカは楽しそうに太股に力を入れたり、緩めたりしている。ただ遊んでる様にも見えるが、リカは正確に、一瞬でユウスケを絞め落とせるベストなポイントを技を完全に極めても尚、探し続けているのだ。

「最後くらい男らしく認めて下さいよ。「女のほうが強い」って!」

ぎゅうううううううううううううううううううううう!!!

ユウスケは涎と涙で顔をグチャグチャにしながら、何かを言おうとしている。「絶対に言わない」という意志表示かもしれないし、「女のほうが強い」と認めようとしているのかもしれなかったが、リカはユウスケからの信号を無視した。

「女のほうが強いって、当たり前ですね♪」リカは自分の体勢をもっとも自分が力の入れやすい、そして相手を「失神させやすい」位置にもっていき、上体をあげ、腰をあげ、ユウスケを完全なる敗北の闇へと、急速に誘った。

ぎゅううううううううううううううううううううう!!!!


会場に取り付けられた巨大スクリーンには、鼻水や涎、涙で顔をグチャグチャにした男子プロレス界のエースが映し出され、その後に歓声を浴びるリカの姿が映し出された。

翌日のスポーツ誌には、「若きエースの「証明」」と皮肉めいた見出しが付けられ、失神したユウスケの顔がデカデカと一面を飾っていた。