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「バルハラ ナオミについて聞きたいって?まぁ、君は軍隊経験者でも、諜報員でも無い様だし、話しても言い。ただ、他言する事はよした方が良いかも知れない、それは私のためではなく、君のためだ。なんでかって?彼女は、、、いや、、、、まあいい。私が知る範囲でお話しするよ。」

君も知ってると思うが、十数年前、フェジー王国というヨーロッパの小さな国で、テロリストが日本大使館に立て篭もるという事件が発生した。人質となったのは、日本の数名の外務省出向の役人、及び現地スタッフ、そして運悪く、一組の家族であった。当時のヨーロッパは巨大なブロック経済圏が失敗に終わり、無数の小国が再独立を図ろうと、各地で内戦やテロが多発した。当時、フェジー王国も、その例外なく、独立を図ろうとしていた。<フェジー王国>と今でこそ、呼称出来る。というのは、このテロ行為がきっかけとなり、群集が動き、正式な手続きを経て、現在では正式にフェジー王国は独立した国として認められた。これは奇跡的な事でヨーロッパの不安定さや、フェジー王国発生の地理的状況、及び独自の宗教観や、テロリストが<日本>の大使館を狙った。という複雑な背景が一本の線に繋がり、フェジー王国は建国されたのだ。

しかし、君ら日本人にとっては、屈辱的なものだっただろう。なにせ、日本大使館に勤める者全てが殺され、ビザの申請に来ていた家族まで結局皆殺しにされてしまった挙句にテロリストは現在も逃亡中とはね。テロリストの要求を飲んだにも関わらず、人質を救出する事すら出来ない。どうやら、日本には独特の<交渉術>でもあるのかね。でも、君が<ナオミ>にまで辿り着いているという事は、テレビや新聞、インターネットで公開されていた この事件の結果は全てが真実ではない。

そう、生存者は一人いたのだよ。ビザ申請に来ていた家族の一人娘である五歳児のナオミが。

私はYPAという、ヨーロッパ統合警察の特殊部隊にいた。当時の立て篭もり事件に対し、日本政府は武力介入による人質の救出を目論んでいた。そういう対テロについてYPAはプロフェッショナルだった。しかし、私のYPAの中のチームも私自身も、大使館に立て篭もっているテロリストとは、友好関係にあった。というのも当時のYPAの特殊部隊というのは、ヨーロッパ中の荒くれ者や犯罪者を集めたような集団だった。一昔前にあった、フランスの外国人部隊のような素性は問わないシステムだったので、<フェジー王国の在日本大使館襲撃事件>の突入部隊全員が、元フェジー王国出身者であった事など、公的な記録にも何処にも残っていないのだ。

テロリストと私は共同戦線を組み、事に当たった。そして、それは成功した。私と私のチームはテロリストを取り逃がしてしまったために、日本政府から何かしらのお咎めがあるかと思ったが、日本政府はクレーム1つ寄こさなかった。テロリストは私に感謝し、チームもフェジー王国がまた復活すると喜んだ。しかし、私は1つだけ隠し事をしていた。<ナオミ>を生かしたのは、私だ。しかし、育てたのは私ではない。YPAだ。

君がどういう用件で私の所に来ているのか解らないが、彼女が殺しや、何かをしたとしても、<ナオミ>は私の子供ではないし、私にその責任はない。

なぜ、彼女を生かしたかって?それには理由がある。彼女の目だった。彼女は私達が敵を殺している間、私達を研究していた。ある人が見れば、それはただ子供が無垢にただ風景を見ているだけとも取れるような目だった。

しかし、私は確かに、彼女の目の中に好奇心が宿っているのを感じた。

私は仕事に私情を持ち込まずに、ただただ任務を全うする人間だった。それは私と同じチームだった隊員が良く知っているはずだ。しかし、この大使館の事件については、完全な<任務>と私は思っていなかった。私の私情が十分に介入出来る余地が、この大使館突入についてはあったのだ。

私は弾丸が縦横無尽に走り回る部屋から彼女を連れ出し、彼女を天井裏に隠した。そして、後日、事件の検分を行う際に彼女を回収した。

遠い親戚から預かった。彼女を一流の戦士に育ててくれ。そう言って私は、YPAの志願兵受付所の知り合いに<ナオミ>を託した。

それから、10年程経ち、私は実績が認められ、YPAの教官として訓練施設に赴任した。そこで私が目の当たりにしたのは、<ナオミ>の成長ぶりだ。

YPA内における女性用訓練で、<ナオミ>の戦闘における才覚は抜きに出ていた。何十年と訓練施設にいる他の教官に聞いてみると、<ナオミ>は入隊直後から行われた、新隊員教育から既に抜きに出ていて、一年も経つと、男の新隊員程度であれば余裕で倒せるようになっていたという。当然、当時幼かった<ナオミ>の対戦相手も若年層が多かったために、<ナオミ>がどれ程強いかを正確に測ることは難しかったそうだ。

しかし、今私の前にいる18歳になった<ナオミ>は、豊満な胸と魅惑的な脚とを手に入れ、すっかりと大人の女性になっていた。

そして、彼女の大人への成長は、彼女の戦闘力と比例した。

私は男女混合訓練の最中に<ナオミ>の実力を測るために、当時訓練施設でナンバーワンと言われていた男を<ナオミ>と戦わせた。結果は<ナオミ>の圧勝だった。

彼女は、男からのパンチや蹴りの打撃を悠々と交わし、男の顎が空いた瞬間に、彼女は跳躍し、そのまま膝蹴りを顎に叩き込んだ。男の意識が一瞬吹っ飛び、ヨロめいた男の背後に一瞬で回りこんだかと思うと、ジャーマンスープレックスを叩き込んだ。が、すんでの所で男は受身をとって、ジャーマンスープレックスが決まるのを防いだ。

「ナオミ、何度も同じ手を食うと思うなよ?」そういって男は素早く起き上がり、大振りのパンチを浴びせようと振りかぶった、そのモーションに合わせるように、<ナオミ>は男の体にまるで蜘蛛が張り付くかのように、男を覆った。<ナオミ>と男を囲う男達から、「killing CQC」という言葉が聞こえた。<ナオミ>は、立っている男の背後から、男の胴体に太腿を巻きつけ、男の首に<ナオミ>の脇の下を巻きつけ、フロントチョークを完成させていた。立った状態で、胴締めフロントチョークスリーパーを決めているのだ。ぎゅうううううううううう!!!!!!! と<ナオミ>は、そのまま体勢を後ろに仰け反った。

男はグランドに持ち込まれるのを恐れているのか、必死でその場を耐えた。<ナオミ>は、男が後ろに倒れない事が解ると、フロントチョークから男を解放し、直にスリーパーホールドに移行した。

男の頬に自分の頬を擦り付けながら、締め上げ、<ナオミ>はあろうことか、スリーパーホールドを極めながら、男の顔面を舐め始めたのだ。私は、訓練を馬鹿にしているのかと思い、中止させようと思ったが、<ナオミ>は、男の目をベロで狙っていたのだ。

ぎゅううううううううううううう!!! ベロベロベロレロレロレロ じゅるじゅるじゅる 生々しい音が聞こえる。

ぎゅううううううううううううううううううううう!!!!

男は力なく、その場に倒れた。

教官として、私はジャーマンスープレックスを実践的ではないとして<ナオミ>に使用を禁止する事を禁じたが、ベロで相手の目を攻撃する行為については、何も触れなかった。目潰しとしての機能が果たされていたためだ。その数年後に<ナオミ>は忽然と姿を消す。

なぜ、<ナオミ>がYPAを辞めたのかも解らないし、その後彼女がどういう人生送っているのかも知らないし、興味は無い。

ただ私の目には狂いがなかったのだ。彼女は戦士としての素養は天性のものだ。彼女は戦うために産まれてきた。私はそれを見出した。それだけだ。特別な感情は特に無い。

パブで偶然を装い接触した、この初老の老人は俺が知りたい<ナオミ>の情報を全て教えてくれた。彼女は今、3WAという日本のプロレス団体で<副業>をしながら活躍している。彼女がYPAを辞めた理由、それは恐らく、自分が他者を破壊していることを見せたいのだ。自分の家族や、自分の周りの人間が、自分の目の前で無残に逝った姿を彼女は再現して伝えたいのだ。彼女の戦いは、安に人を倒すことをやめ、<魅せる>戦いにシフトしたのだ。

俺は<ナオミ>の副業で、三人の仲間を失った。しかし、未だに<ナオミ>の弱みを俺は見つけられないでいる。 <狂いのない老人の目>は、俺が彼のビールに混入した毒物の影響でゆっくりと閉じようとしている。手にはもう力が入らないのか、飲みかけのビールが床に落ちそうになり、俺はそれを音もなく支えた。「こちら、I。任務完了。」


終わり