南から北へと流れる河が、何千年もかけて作り上げた渓谷があった。
「ナンデイン渓谷」である。
そして、その谷には、女だけで構成された部族、「マンゾネス族」が暮らしていた。

「マンゾネス族」では、屈強な男を外界から呼び込み、子種をもらい、子孫を増やしている。
男児が生まれると他の集落へ譲り、女児だけが仲間として育てられた。

この集落は、常に安全という訳ではなかった。
渓谷には獰猛な獣達が生息しているし、そんな中で食料を自分達で調達しなければならない。
そのような環境であるから、自ずと女達は筋骨たくましくなっていた。

そんな屈強な女達ではあったが、一度だけ村の存続が危ぶまれた事があった。

それは、「虚無」が出現した時の事である。 

「虚無」は、「マンゾネス族」が称える始祖を祀った洞窟の奥深くに突然現れた。
鉱石を掘りに偶然入った女が、暗闇の中へと吸い込まれ、帰って来なかったのである。
それを見た仲間は慌てて村へ駆け戻り、屈強な戦士達を招集した。
族長を先頭にしてその場所へ駆けつけると、穴の前には不気味な肉塊が佇んでいた。

女達は、凄まじい嫌悪感に支配され、次々と手にしていた武器をその肉塊へ叩きつけた。
しかし、どの刃も傷一つ与えられなかった。
桃色の濡れた表皮が刃を滑らせ、獣の脂のような弾力が槍を弾き返した。

女達が唖然としていると、突然肉塊が縦に裂けた。 
肉の花びらが開いた中には、星空のような闇が広がっている。 
見たこともない光景に後ずさりする女達。
それを止めるかのように、長い触手を伸ばした軟体質の物体が、肉塊の中の闇から出現する。

「撤退っ!」

族長の大きな声が洞窟内に響き渡る。
動転していた女達は一斉に我に返り、 素早くその場を離れた。

「族長っ!あ、あぁ…あれは一体っ!?」
「あんなもの見たことがありません!」
「これからどうするのですか!?」

洞窟を脱兎のごとく駆け抜けながら、族長に質問を投げかける女達。

「落ち着け!今の我々では勝てぬ!」

族長の一言で無言になる女達。

「すぐに使いを出すのだ…噂のあの人物に…。」

村にはあっという間に動揺が広がっていた。
女の話というのは、男の何倍もの早さで広がるものだ。
ここは女だけの集落であるから尚更である。

「いいか、噂のあの方なら、きっとこの件にも対処して下さる事だろう!」

族長は、この村にも活躍の噂が届いている英雄を呼び寄せるよう担当の者へ命じる。
近隣の村に派遣していた者からの情報で、彼の居場所を把握していたのだ。
実のところ、別の理由で調査していた訳だが。

族長は使いを出すと、村の洞窟側の入り口の見張りを増やすように命令した。



幸い、洞窟から「謎の物体」が出てくることはなく、数日が過ぎ去った。 

そして、ついに女だけの村に、一人の英雄が現れた。

それほど背丈は大きくないが、鎧の下から見える肌には筋が浮き上がり、頑強さを誇示している。
また、良く日に焼けた褐色の肌が、男らしさを彩っている。 

男は、女達が見たこともないような綺羅びやかな鎧を輝かせながら、さっそうと村の中を進む。

村へやってきた英雄に見とれる女達。
彼女達の吐息は甘く、知らぬ間に内股になっている。
女達の本能が、この男を欲していると訴えているのだ。

「よく参られた英雄よ!」
真剣な眼差しで男を見つめる族長。
だが、その歯は食いしばられている。
気を緩めると、一気に顔が蕩けそうなのである。
仲間達の前で女の顔を出す訳にはいかず、内心酷く苦労していた。 

族長は、男に状況を説明する。
男はうなずき、自分の経験と知識を女達に説明する。
例の「物体」が「虚無」と呼ばれ、この世の存在ではない異質なモノと知らされる。
その話は、太く軽やかな声によって女達の脳髄にまで響く。

「わ、分かった…では、よ、よろしく頼む!」

男にその場へ案内されるよう頼まれ、我に返る族長。
他の女達は、相変わらず呆けた表情で男に見とれている。

「うっうぅん!」
大きくわざとらしい咳払いをする族長。
女達が我を取り戻すのを確認すると、族長は声を上げる。
「英雄の力をしかと見届けようではないか!」
「おおっ!」

男は、仰々しい女達に苦笑いを浮かべながら、洞窟へと歩き出した。


 
洞窟内は、妙に静まり返っていた。
男の話によると、「虚無」によって洞窟内の生物が減っているからだという事だった。

一団が奥に進むほどに、洞窟内の空気が冷たくなっていき、
干からびた生物の死骸が増えていく。

やがて見えてくるおぞましい卵型の肉塊の姿。
肉塊は、周囲の鉱物を自身の世界の水晶のような物質へと置き換え、その中央に鎮座していた。

一同は、思わずツバを飲み込んだ。
その姿が、以前よりも確実に大きくなっていたからである。

「虚無」を刺激しないよう、一人で行くと言う男。
他の誰もがその言動に驚き、疑いの目で男の背中を見つめる。
しかし、多くの知識と屈強な身体、特殊な装備に身を包む男を前に、
信じない訳には行かなかった。
というよりもまず、誰も動けなかったのである。 

金属の鎧を身に着けているとは思えない静けさで、 男は肉塊に静かに近づく。
そして、深呼吸をする。
やがて、一陣の風が吹き抜けたかのような気配がすると、爆発的に男から殺気が沸き起こる。
女達は、背中の毛が総毛立つの感じた。 

そこでやっと肉塊も男に気付いたのか、「虚無」の眷属を呼び出さんと肉の花弁を開き始める。
だが、肉塊が動けたのはそこまでだった。

緑の霧が男を包み込んだかと思うと、片手に握られた鋭い剣を先に男が飛び上がる。
同時に、幾重もの光跡を残しながら緑の竜巻が肉塊を包み込む。

男が着地すると、肉塊は散りゆく花の様にいくつもの肉片に分かれていく。
そして、自らの内なる闇へと吸収され、小動物を踏み潰したような不気味な音をたてて
塵一つなく消え去ってしまった。

「な、なんだと…」
言葉を失う女達。
しかし、それも束の間、静寂が歓喜の声に取って代わり、洞窟内が一気に暖かくなった。

男は、飛び跳ねる女達に囲まれて困惑する。
女達は、そんな男の感情を知る由もなく、男を抱えて村へ帰って行った。



それから十数年後、同じ場所。

「これは間違いない、虚無だね。」
鎧、とは呼べない肌の露出が多い赤い装備に身を包む、銀髪の女がボソリと言う。
「本当か?ヴァイス。」 
「あぁ、私らが幼かった頃、前族長が英雄に倒してもらったというアレだ。」
ヴァイスと呼ばれた女が、肉塊から目を離さずに言った。
伸び放題の脇毛が、汗で肌に張り付く。

族長となった女でさえ、畏怖してしまう程の不気味な存在。
それが「虚無」なのである。

「うぅむ、そうなると、我々の剣ではダメという事か。」 
「リンド、お前の剣術と身体能力はマンゾネスで一番ではある。
 が、倒せるかどうか分からぬまま刺激するのはまずい。」

「くそっ…どうすれば」
リンドは、女にしては大きな拳を握りしめる。

「あの時は、高名な冒険者がいてくれたが…今は。」
リンドの太い眉毛が釣り上がり、眉間の縦皺を濃くさせる。

「そう暗くなるな、リンド。こう言う時には新たな英雄が現れるモンさ。」
何故か笑顔のヴァイス。
リンドの顔も、族長の無邪気な笑顔に思わずほころぶ。
「お前がそう言うなら、そうかもしれないな。クックック。」

女の一族を率いるヴァイスには、不思議な魅力があった。
その言葉は常に前向きで、仲間を鼓舞させるのだ。

これが族長たる所以か、とリンドは不思議と納得していた。

「女の勘って訳じゃないが、何だかどうにかなりそうな気がしているのさ。」
「お前が間違っていた事は今まで一度もない。信じているよ。」

二人は、静かにその場を立ち去った。



その数日後、ヴァイスの言う通り、村に一人の男が現れる事になるのだった。  



Fin.

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●あとがき
またまた唐突に読み物を書き上げてみましたよ。
今回も、ゲーム内では描写されていない部分を補完する形ですね。
マンゾネス族はお気に入りの部族なので、ノリノリで書きました。
特に、性欲が凄い女達の描写に興奮しながら書き上げました。
楽しめましたでしょうか?
主人公の父親に関しては、頑なに情報不足を維持させております。
具体的にしてしまうと、伝説というものはチープになってしまうと思いませんか?
ミステリアスだからこその魅力というのはあると思います。
今後もこういう形でいろいろと補完しながら、世界を広げていければと思います。
お楽しみに!

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